<2019.2.13記>
「ん、何だこれ、マンションの屋上で鳩を飼っているのかぁ?」設計図書を見て驚愕している営業マンがいたらならば、どうか嘲笑することなくそっと耳元で囁いて欲しい。「その『ハト小屋』は立派な建築用語ですよ」と。意外かもしれないが不動産会社のベテラン営業マンであっても知らない建築用語は多い。
※ハト小屋とは、陸屋根の配管がスラブを貫通する箇所に防水層を保護するために設置する小さな箱のこと。見た目からそう呼ばれる。
意外と言えば、マンションに集まる鳩を排除しようと剣山タイプ・忌避剤・目玉模様の風船・鷹の模型等、専用の鳩除けグッズを用いても(私の経験上)どれも効かない。(剣山タイプの鳩除けに至っては、その上に巣を作って気持ち良さそうに寛いでいた。)それ程鳩は一度気に入った場所に強い執着心を持つ。(私見だが高木と同じ高さとなる5階~10階が好みであると思う)糞害の恨み節もあって少し言い過ぎたかもしれない。前言撤回、手摺にピアノ線を張るタイプは局所的(手摺のみ)に効く。防鳥ネットなら居住者に閉塞感を与えるも(侵入できないのだから)100%の効果がある。
そんな時は猫が睨みを利かせてくれれば良いのにと思ったりするのだが、(管理規約により戸外に出せない)ガラス越しの猫では鳩も恐れない。その頼りない猫もご先祖は船荷(仏教の経典)をネズミ被害から守る為に遣唐使船に乗り遠路遥々中国から日本に渡来したという。今では、愛玩動物としての確固たる地位を築き、贅沢な食餌のお蔭でネズミを捕らなくなってしまった。当然に鳩除けにはならない。かつての凛々しい戦士も「腑抜け」になってしまった感がある。だが、可愛いから許そう。(豆知識①建築現場で言う「ネコ」とは一輪車のこと。豆知識②雄の三毛猫は大変珍しい。雄の三毛猫が生まれる確率は一説に3万分の1とも言われる。残念ながら染色体異常ゆえ殆ど生殖能力が無い。)
建築用語に絡んだ最初の動物はネズミだと思う。奈良の正倉院(校倉造の高床式倉庫)の「ネズミ返し」が有名である。しかしながら、弥生時代の遺跡(静岡の登呂遺跡が代表的)でも発見されており、農耕民族たる我々のご先祖が古代よりネズミ被害に悪戦苦闘していたことが想像できる。困ったことにその「ネズミ返し」は、学習能力も身体能力も高く垂直に近い柱をも駆け上がるクマネズミには効かないかもしれない。(コラム№2.「ファインプレー」参照)
建築用語ではないが「ヤモリ」も家に関係している。家に住み着き害虫(蛾・蠅・ゴキブリ等)を捕食してくれるから「家(ヤ)守り(モリ)」と呼ばれることになった。一方、捕食される方のゴキブリの本来の名は、御器齧り(ゴキカブリ)だという。江戸時代の人々には食器の食べカスを舐め齧(かじ)っているように見えたのだと思う。(ゴキは、「五穀」「五器」等諸説あり)そもそも明治時代の昆虫学者のゴキ(誤記=「カ」を脱字)が現在の名前に定着したに過ぎないことは嘘のような本当の話である。
戸建の基礎を食い荒らすシロアリは、「蟻」という名がつけられているものの、蟻が「ハチ目」の昆虫であるのに対し、シロアリは朽木などを食べるゴキブリの中から社会性を著しく発達させた昆虫である。蟻と同じく女王シロアリがコロニーを形成するが生物学上はゴキブリの親戚だ。(タラバガニが「蟹」ではなく、「ヤドカリ」の仲間であるのと似ている。※各々の足の本数に注目)不動産業界では厄介者であるそのシロアリだが、樹木のセルロースを分解する能力がある為、自然界の土壌の生物循環に多大なる貢献をしている。
原稿枠には文字数の限りがある。コラム№13.(歩く)と同じく「思うところ」を語らず単なる豆知識の羅列で終わることを申し訳なく思う。仕入を思案する古家の設計図書を眺めている内に「犬走り」の文字を目にして詰まらぬことをあれこれ考えてしまった。きっと今時の若者はハト小屋のことは疎か、「犬走り」は「ドッグラン」のことと勘違いするだろう。そんなことを思ったのが書き出しのきっかけとなった。
※「犬走り」=外構の一部を表す建築用語
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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