【寄稿№61】山を買うということ | 東京駅・茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 【寄稿№60】山を買うということ




    <2024.1.4寄稿>                                           寄稿者 ふんふん武丸
    私が小学校のころ、学校へは必ず懐中電灯を持参していた。私は父と同じ小学校の出身だが、父の時代は「たいまつ」を持参していたらしい。なぜなら、私はトンデモなく山奥の1軒家に住んでいて、学校からの帰り道は、集落を抜けると街灯もアスファルトも家の明かりも何もない真っ暗闇の山道を歩かなければならなかったからだ。

    学校から家までは10キロほどの距離があり、全校生徒(といっても約100人くらい)の中でも私の家はトップクラスに学校から遠くて山奥だった。また、私の家から一番近い家までも3キロ以上の距離があった。当然ながら一番近い店に行くにも車で30分以上のでこぼこ道という、不便このうえなかったので、食べ物は自給自足をメインに、日常の買い物はときおり巡回でやってくる「配給車」と呼ばれるものなどで調達していた。配給車とは、小さな商店を営む店主が車に食べ物や日用品を積んで売りにやって来るもので、田舎の年寄りたちにはとてもありがたいシステムだ。生活水は山から引いた水をつかい、薪で風呂を沸かした。言っておくがこれは戦時中の話ではなく、日本がバブル好景気に沸く80年代に、小~中学の頃の私はそんな山奥ライフを送っていた。

    そんなこんなで飽きるほど山ですごした私だが、ここ数年のキャンプブームにのっかって、なんとなく昨年あたりからキャンプをはじめてみた。当然私は虫にも強く、たいていの虫には対応できるが、キャンプのツレが都会育ちで虫が苦手とあり、とんできた蜂やアブを退治するのはもっぱら私の仕事だ。ところでこのキャンプブームの中、山の売買がさかんに行われるようになったとよく耳にするようになった。高齢となった所有者らの間で、タダでもいいから山を買ってほしいというケースが数多くでてきており、20~50万円程度といったお手頃な値段でホイホイ山が手に入るようになっているらしい。キャンプ好きの有名人などが購入してSNSで紹介していたりするのも、人気に火がついた要因かもしれない。

    私の家があった山も、かつては祖父が所有していた山だったが、20年ほど前に親が売却をして手放した。今ならば山の売買を仲介する不動産業者の情報もインターネットで簡単に探すことができるが、山の売買は普通の不動産売買とはいろいろと事情が異なっていることもあり、当時は山を売りたかったら知り合いの知り合いなどツテをたどって買う人を探すような個人売買が多かった。ところで山ではどのように所有者同士で境界線を決めていたかというと、私の住んでいた地域の場合は、境界に特定の木を植えて目印にするといった風習があったようだ。

    山を所有するというのは、なんとなくワクワクする話のようで、実は怖い話でもある。山を手に入れたからといって、すぐに土地を好きにできるわけではなくいろいろと制約があるからだ。山を買ったらログハウスを建てて…などと妄想していたら建物を自由に建ててはいけない土地だったなんて話もある。また、山にはいろんな危険が潜んでいるので、自分が所有する山での害獣、害虫、土砂災害、山火事などによって他人に被害を及ぼすことがあれば当然責任を負わなければならないし、山は手入れを怠ると地面がもろくなって土砂災害などが起こりやすくもなってしまう。所有し続ければ固定資産税は払わなければいけないし、管理にもお金をかけなければいけないし…などと考えていたら、ちょっと私ならタダで譲ると言われても躊躇してしまうところだ。

    山暮らしを長年やってきたものからすると「たまに行くから田舎はいい」という言葉があるように、「たまに行くから山はいい」と私は思ったりする。自然は怖いから自分の手の中においておきたくはないが、自然がくれる恩恵もまたなにものにも代えがたいものだ。私は今まで食べたもののなかで一番おいしかったものは山の頂上で食べたおにぎりだと思っているし、満天の星空とおいしい空気は特別な時間をくれる。
    山を買うときは心して買いましょう、といったお話のつもりだが、なんだかうまくまとまらないので、最後に山でのワンポイントアドバイス。
    山で蛇に遭遇したときは、大きく長い蛇よりも小さく短い蛇に要注意。頭が三角の蛇も要注意。毒があるのはたいていそんなやつなのだ。


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