<2024.5.2寄稿> 寄稿者 ふんふん武丸
今から約20年前、夫の仕事の都合で九州から東京に移り住むことになった。ただ、当初任期は2~3年の予定だったので、自分が仕事を辞めて夫について行くのかは多少悩んだところもあったが、勤めていた不動産会社での仕事がそこそこハードだったこともあり、ちょっと骨休めのつもりで引越を決めた。関東には知り合いがおらず土地勘もないので、ひとまず近所で短期の仕事を探し、家から徒歩10分程度の場所にあった、とある工場で働くことになった。
工場の近くには、巨大な規模の団地があり、工場で働く人の多くはその団地にお住まいのマダム達であった。地方ではマンモス団地と呼ばれるものをあまり目にすることがないうえ、その団地は国内最大規模とも言われていたため、かなり興味深かった。
工場には30代から60代までまんべんなくあらゆる世代の団地マダムがおり、毎日いろんな方から団地の暮らしぶりを伺い知れる話を聞くことができた。私がいろいろと驚かされたのは、団地住民たちの連帯感や結束感といったものの強さだった。
入居を開始した40年ほど前から長年住んでおられる方も多いとのことで、地域のコミュニティーが確立してあらゆる場面で機能しており、例えば、留守中幼い子供を近所の人に見ていてもらえる、病気の時に近所の人に必要なものを買ってきてもらえる、足の悪い老人を病院につれていってもらえる、などなど、およそ東京と思えない(田舎暮らし経験者の自分からすると馴染み深い)話の数々に驚いた。団地には自治会や組合といったものが存在し、高齢者の見守りや子育て支援、住民同士で行うイベントの企画など、居住者のあらゆるサポートを行っているということも知った。
こういった環境下で暮らしていることもあってか、団地の方々は、人慣れしているというか、コミュニケーション能力に長けておられると感じた。引っ越してきたばかりで何もわからない私にも、かわるがわる親切かつ熱心に東京のあらゆる情報を教えていただけたし、住民同士で頻繁に連絡を取り合っている様子も見られた。
興味が沸いた私はたびたびその団地を訪れた。団地内にはいくつかの商店街に大きなスーパー、各種病院や学習塾などが充実しており、すぐそばには大きな総合病院をはじめ図書館、警察署、郵便局、多くの学校などがあった。最寄り駅としては3つの駅が使えたし、都心までも電車で30分程度という、上々の立地だった。さらに、敷地内には公園や緑が点在しているうえ、どの住戸も日当たりが良いという、住環境の良さにもかなり驚かされた。
こういった利点は、たまたまそこの団地に特有というわけではなく、各地に存在する公的に建てられた団地ではよく見られるという。子育て世代はもちろんのこと、最近では、寂しさを感じなくていいという理由から入居を希望する一人暮らしの女性も増えているらしい。防犯面はどうかというと、たとえばUR都市機構などが入居募集を行う団地のケースでは、反社関係NGはもちろんのこと、年収や貯金、国籍など厳しい審査基準を設けており、比較的安心感もあったりする。
あまり他人と交流したくない派の方には厳しい環境かもしれないが、人とのつながりを求めたい派の方にとってはもってこいの環境ではないだろうか。
ただ、近年問題となっているのが、建物の老朽化や高齢化、空き家問題などであるが、若い世代を誘致するための試みもあちこちで行われているようだ。例えば無印良品やIKEAとコラボした団地再生プロジェクトなんかも話題になっている。リノベーション技術も年々進化しているようだし、外観の古き良きヴィンテージ感も残しつつ、内装はモダンに大変身、といった、若い世代にはキャッチ―な物件もあらゆるところで登場しているようなのでかなり面白いと思う。
工場勤務は8ヶ月の契約期間を終えてしまい、2~3年で九州に戻る予定がまさかの20年近くこの関東に残ることになってしまったが、団地マダムたちとの交流によって得た情報がかなり私の生活面での助けになったことは言うまでもない。底抜けに明るいマダム達からは「うちの団地って自殺の名所だよねーキャハハ!」とか「もうあちこち事故物件事故物件よ!」などとヘビーな話を聞かされることもあったが、はっきり言って怖さゼロだし誰も気にしてない風だった。
マンション住まいではなかなか味わえない、団地における住民同士の連帯感・結束感は、少子高齢化が進んでいくこれからこそ、いっそう重要になってくるだろうし、ますます今後注目度が高くなる気がしている。