今どきのタワーマンションでの出来事。その事件は、ある日発覚した。区分所有者の一人が、最上階のゲストルームを営利目的で転貸して荒稼ぎをしていたのだ。おそらく同一人物の著しい利用頻度が管理組合で問題視され、利用者に違和感(どう見ても様々な国からの旅行者)を感じた建物管理会社が調査した結果、その証拠を掴んだのだと思う。確たる証拠は「民泊サイト」に掲載された室内写真であることが多い。タワーマンションのゲストルームは、高級ホテル並みに豪華な仕様ながら、利用し易いように割安料金の設定が多い。また、悪用しても罰則規定が無いので確信犯と思われる。その盲点を突かれた。
この問題は、管理規約・使用細則が「性善説」により作成されていることにあると思う。「人(居住者)は、そんなに悪いことはしないだろう。」といった我が国ならではの感覚で規則が「緩く」作られているからだ。
勿論、厳し過ぎたら息苦しいし、利用しにくい。だが、現実を直視すれば、「人は、放っておけば、悪いことをする。」もしかしたら「性悪説」でルール作りを徹底せざるを得ないご時世になってしまったのかもしれない。
不動産売買契約書でも「性善説」に則って、末尾は「本契約に定めのない事項は、信義を重んじ誠意をもって協議解決する」といった締め括りが多い。つまり何等かの紛争が発生しても「話し合えば分かり合える」という前提になっている。しかし、国際社会では「曖昧」な取り決めは契約書の意味をなさない。契約書は後から協議しなくても良いように細かく取り決めるべきもので契約書の厚み(条項数)は日本の一般的な契約書式の何倍にもなる。その厚みの違いは、「性善説」と「性悪説」の違いに思えてならない。
マンションの管理運営においても、「性善説」は顕著に見受けられる。悪いことはしない前提で作られた管理規約・使用細則の「緩さ」から予想外のことが起こる。分譲マンション内で秘密裏に運営される「シェアハウス」も一例だろう。確かに、一般的な管理規約・使用細則には入居人数の制限は無い。明文化された制限もないうえ、自己使用比率の低い投資用マンションでは、監視の目が少ないこともあって(高収益化を目的に)ワンルームにカプセルホテル並みの寝床を設けて8人が居住していることもある。実際それを内見したこともあるが、ペットショップの様な造り(犬・猫のケージみたいなもの)で非人道的なものを感じた。
区分所有法も時代の変化に追いついていない。都心部の投資用マンション1戸の所有権を地方の投資家に過剰に細分化して持分売買を行っていたりする。ワンルームを20人で所有することに何ら違法性は無いし、少額投資の利点から少し割高でも買い手がいるのも事実だ。しかしながら、その様な投資家は、家賃の分配金のみが目的で、管理組合の運営には無関心である。また、二次相続以降、増える共有者に収拾がつかなくなる。
これからは、管理組合の乗っ取り事件も発生するかもしれないと危惧している。7人の理事枠に悪意のある4人が何らかの目的で徒党を組んで立候補すれば、理事会を牛耳ることができる。まず、建物管理の委託先を自分たちに都合の良い管理会社に変更することから始めると思う。他の管理組合員は無関心でその策謀に気付くことは無い。総会も欠席者が多く理事長一任が多い。よって、多額の修繕積立金も狙われることとなる。大規模修繕工事の時には、彼らに都合の良いゼネコンが選ばれることになるだろう。
断っておくが、私は「性悪説」を説いているのではない。
静かに警笛を鳴らしながら、悪意のある人々の「我欲」を嘆いているだけだ。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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