不動産業界に限らず、営業職において「過剰」なサービスは禁物である。誤解を恐れずに言えば、誰かのサービスを「過剰」に肩入れするということは、誰かのサービスを削るということになりかねないのだ。また、顧客から求められてもいない些末な事柄を(「過剰」なまでに)逐一報告するのが良い営業だとは思えない。サービス業である限り、ホスピタリティも重要であるが、美辞麗句を並べ立てるよりも大切にしなければならない営業の「本質」があるはずだ。
仲介業務は、フィー(手数料)ビジネスである。「手数料無料」のキャッチコピーがWEB上に氾濫するが、フィーを放棄すれば、ボランティアになってしまう。どこかにカラクリと嘘があることも多く、よく見ると「○○会費」や「消毒費」など意味不明の但し書きも多い。また、本当に仲介手数料が無料であるならば、売主・貸主に「過剰」な負担が掛かっているはずである。(または、報酬が補填されない物件は仲介会社が積極的に紹介したがらないから、本来求められている不動産情報であるにも拘わらず除外されてしまう)
「売主の味方」であることを喧伝する仲介会社も多い。相場より高く売るのだと宣(のたま)う。成果が不確実な買主側に付くよりも、専属専任媒介さえ取得すれば、確実に収益が見込める売主をグリップしたい魂胆が見え見えである。「過剰」に売主の味方となるのであれば、「買主の敵」だということを忘れてはならない。(コラム1.「矛盾」参照)
新築分野で「過剰」が目立つのは夥しい広告量だ。新築分譲マンションの広告予算は、総売上の3%位が標準であると推察する。20億円の売上ならば、5千万円超の広告費が集客目的にばら撒かれる。私がその物件の購入者であれば、豪華なパンフレットやチラシを素直に喜べない。全て分譲価格に組み込まれているからだ。売上が100億円超の大規模プロジェクトにおいては、インターネット広告のみで完売できる販売手法を考案し、豪華モデルルームの設営が不要にできるならば、億単位の経費削減(その分、分譲価格下方修正)が可能である。
中古流通分野においても広告費の無駄遣いでは?と思うことがある。その昔、広告の費用対効果について議論した時に「単色(白黒)のチラシを4色(カラー)に、より上質(厚手)の紙にしたら、反響が増える」と言った者がいるので、私は意地悪く実験したことがある。案の定、反響数に変化はなかった。中古市場で求められるのは情報の中身だ。むしろ、手作り感溢れる素朴で判り易いチラシの方が評価されることが多い。(「過剰」な文字数で「目が痛くなる」様なチラシは論外である)
お客様が疲れ果てるまで矢継ぎ早に多数の物件を「過剰」に案内することが果たして本当に良いことだろうか。自信を持ってお勧めできる物件に絞ってじっくりご見学頂いた方が良いこともある。何も高級車で送迎することが良質なサービスとも限らない。天候に恵まれたのならば、建物だけでなく、時にはお奨めできる飲食店や実生活で利用することになる公共施設などを紹介しながら、街並みをゆっくり移動してみたらどうだろう。
サラリーマン時代に2度「チョコレートパフェ」の領収書を見たことがある。一つ目は、バブル期における気の緩みからだろう。会議でそれを注文した上司が、経理部から支出の理由を詰問されて冷や汗を掻いているのを見て思わず吹き出してしまった。二つ目は、私の部下が案内時に打合せで使ったファミリーレストランで子供が頼んでしまったというものである。商談を纏めたいが故の経費なのだろう。営業マンの気持ちが判らぬでもないので渋々経理に回したら私が詰問される羽目になってしまった。
「過ぎたるは、猶及ばざるが如し」の格言がある。
お客様に求められている「サービスの本質とは何か」を極めて参りたい。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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