<2018.7.24>
先週のコラムでは、不動産業界(仲介)の「闇」とも言える「囲い込み」に触れた。ならば、もう一つの闇、「抜き(ヌキ)行為」についても触れない訳にはいかないだろう。ところが、「囲い込み」が一般顧客への迷惑行為であるのに対し、「抜き行為」は、同業者に対する迷惑行為なのであまり表面化していない。また、同業者でない限り、この度のテーマに興味は無いことと思われるが、不動産業界の舞台裏を知っておいても損は無いだろう。
「抜き行為」とは、同業他社の媒介契約(売却活動の委託契約)を飛び越えて(抜いて)売主に直に接触を図り、その媒介契約を奪取する行為である。同業者とライバル心を持って創意工夫、切磋琢磨(自由競争)することは良いことだと思うが、その手段が卑劣だから問題なのである。手数料倍増のみが目的の悪質な行為である点は、「囲い込み」のそれと同類のものだ。また、不動産業界の未成熟期においては、「囲い込み」と「抜き行為」は密接に結びついていた。「抜き行為」をする悪徳仲介会社があるからこそ、売却情報を公開しづらかった面がある。「抜かれる」から「囲い込む」、「囲い込む」から「抜く」、まさに「悪行」が「悪行」を生んでいた。
さて、売れ筋の優良物件につき、その営業努力により専任媒介(売主側の仲介会社として窓口一本化)にて売却を任された真面目な不動産会社A社が、その売却情報を公開したとする。その途端、悪徳仲介業者B社は、所有者を調べて言葉巧みに売主に近づき、A社との媒介契約を終了させ、B社への媒介契約の移管を迫る。「B社なら、すぐにでも高値で購入してくれる買主がいる。」または、「A社の営業力には問題がある。B社の社員はやる気が違う。(コラム№1「矛盾」参照)」などと売主の心を揺さぶる巧言により、落ち度のないA社を貶(おとし)めていく。時として、購入検討客に扮した知人を同行させるような演出もするらしい。
残念ながら、当社の営業エリアでもその「抜き行為」をビジネスモデルにしているような悪徳仲介会社がある。さぞ効率が良いだろう。優良物件に絞って行う「抜き行為」なら成約の確率は高い。仲介手数料も倍増する。しかも売れ筋物件だから難なく結果も伴って売主に喜ばれる。よって、事件として発覚しない。
以前、「悪徳仲介会社」の営業マンを問い詰めたことがある。聞けば、「会社の方針であり、上司の指示だ。」とのこと。上司は、「何かあったら私が対応する。飛び込んで(抜いて)来い!」と毎朝の朝礼で叱咤激励するのだと言う。確かにその上司に抗議したら全く悪びれた様子が無い。「抜かれる方が悪い。」と開き直る。懲らしめるべきその営業マンが少し可哀想になった。日本大学のアメリカンフットボール部の監督・コーチに対戦相手の中心選手を「潰して来い!」と言われた青年の悲哀とどこか重なる。
余談であるが、今若者達は、百貨店で欲しい品物の現品を確認してから、インターネットでより安価で発売されているものを検索して注文する。つまり「百貨店のショールーム化」である。懇切丁寧に対応してくれた店員に悪いことをしたなどと思ってもいない。ネット通販会社は、その「無料のショールーム」を利用して廉価でも利益率の高いビジネスモデルを構築して急成長している。利用者も最安値で購入できるから満足していると思う。確かに法律的には問題が無い。しかし、何かが間違っている。正当に働く者の労が報われていないからだ。
私は、声を大にして言いたい。「正直者が馬鹿を見る世の中」であってはならない。「額に汗して働く者」が正当に評価されて欲しい。国際基準に照らせば「緩過ぎる」と笑われるかもしれないが、我々の用いる不動産売買契約書の末尾条項はいつも「定め無き事項は、信義誠実のもと」で結ばれている。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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