今日も満員電車から吐き出されるかのごとく人々がプラットホームに押し出される。降りる人が一段落すると流れは一転、今度は先を競って満員電車に人々が突入していく。駅員は必死に「空(ス)いているドアからご乗車下さい!」と怒気をはらんだ言葉で叫んでいる。都心部ではごく普通の光景である通勤ラッシュの喧騒の中で虚しく思った。「空いているドア」とは一体何処にあるのだろう。
私に構内アナウンスのマニュアルを添削させて貰えるならば「少しでも」を付け加える。すると「混んでいて申し訳ないが、『少しでも』空いている乗車口を選択して貰いたい」というメッセージを込めることができる。言葉とは不思議なもので配慮が欠けると刺々しくなるが、たった一語を「添えたり」、「代えたり」することで優しく伝わることもある。それは営業における会話でも同じことだと思う。
前回のコラムで不動産業にあっては、「おかしな英語で煙に巻くのは良くない」ことを述べた。だが、それは物件説明や契約内容に関することであって、言葉をオブラートで包み込まざるを得ない(敢えて歯に衣を「着せる」)難しい局面もある。それが「忖度(そんたく)」や「思いやり」によるものなら何ら矛盾しない。(許される。)
例えば、「狭小住宅」に類する家を「狭い」とストレートな表現をされると、それが事実であっても持ち主は傷つく。そんな時は、「コンパクトタイプ」と言い換えた方が心証は良い。「コンパクトタイプ」の方が手頃な価格帯ゆえ、貸し易かったり、売り易かったりもする。
売却動機を尋ねる内に「離婚」が原因の自宅売却だと気付いた時、「離婚」という言葉を使わず、竹内まりあ風に「シングル・アゲイン」と置き換えて話してみたらどうだろう。「離婚は英語で『divorce』ですよ。」と笑われるかもしれないが、その気遣いが理解されれば場が和む。
経営難を乗り越えようと事務所を縮小する経営者に「縮小移転」などと無神経な言い回しをするよりも「ダウンサイジング」とか「スリム化」と言った方が自然と前向きな会話ができるように思う。日本では、「リストラ」が「fire(解雇)」の同義語として使われているが、本来「リストラ(=リストラクチャリング)は「事業の再構築」のことであり、事務所の「ダウンサイジング」も経営改善を目的とする「リストラ」の第一歩である。
ここまで営業マンの視点で「言の葉」について思うところを述べたが、立ち位置を変えて考えると身につまされるものがある。先日、飛び込み営業で来店した金融機関の営業マンが、初対面の私に「不動産屋」という言葉を連呼していた。せめて「さん」を付けたらどうだろう。「不動産屋さん」なら言葉も少し可愛らしくなる。家主だって「大家!」と呼ばれるより「大家さん♡」と呼ばれる方が良いに決まっている。もっとも不動産業界は、「千三つ屋(せんみつや)」とか「周旋屋(しゅうせんや)」と蔑まされた呼び名の時代もあったから現在はまだマシか。
さて、貴重な朝のコーヒータイムを割いて書きあげたコラムであるにも拘わらず、最後は「ボヤキ節」となってしまったようだ。それでも、若手営業マンに対する参考意見となれば幸いである。勿論、私の持論を鵜呑みにする必要は全く無い。営業スタイルは各々が個性をもって確立すれば良いことだと思う。
最後に誤解無きよう申し上げておく。本コラムのタイトルは、「言の葉」だが、テーマは「言葉遣い」ではなく「心遣い」を述べたものである。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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