近頃、要領を得ない電話問い合わせが増えている。おそらく先輩・上司の指導のもと「度胸試し」も兼ねて電話営業させられているのだろう。4月半ばともなれば、研修を済ませた新人君達が右も左も判らぬまま現場で動き出す時期でもある。仕事に支障が出ない限り大目に見るとしよう。
私も「社会人とは」などと上から目線で語るまい。ステレオタイプの研修カリキュラムに辟易している頃だ。
ならば、賃貸部門に携わることになる新人君達へ「贈る言葉」に代えて「業界用語の解説」でもしておこう。
ほんの思いつきで業界用語「A・B・C工事」を取り上げておく。(売買部門には全く馴染みが無い用語である。)
オフィスや店舗の賃貸業務に携わると、テナントの入居時の内装工事や退去時の原状回復工事の打合せで「A・B・C工事」の用語が飛び交うことになるかもしれない。そんな時、己の無知を誤魔化すことがあってはならないが、顧客や取引先に解説して貰う訳にもいかないだろう。新人であることは言い訳にならないのだ。「当たり前のこと」なればこそ知っておいた方が役に立つ。
A工事とは、賃貸物件のオーナーが、建物構造・共用部に係る「重要な箇所」につき、「自らが指定」する施工業者に「自らの費用負担」において行う工事のことである。例えば、オーナーの経営判断で空調設備を改良する為に躯体に穴を開ける「コア抜き」が必要と考えたとしよう。それは、「A工事」と位置付けた方が良い。「重要な箇所」の工事は、適任者(有資格者)が責任もって行うことにより事故を未然に防がなければならない。
B工事とは、テナントが借り受けた専有部内であり、「テナントの費用負担」であったとしても、「オーナーの指定する施工業者」に発注する工事のことである。建物全体の安全性や工程管理を優先すべき重要な工事内容であれば、このB工事に仕分けされることが多い。前述の「コア抜き」がテナントの要望による空調設備の増設を目的とするものならB工事とするのが妥当だと思う。テナントの要望なのだから費用負担も納得されよう。
C工事とは、テナントが借り受けた専有部内において、オーナーに事前に承諾を得ることは当然として、「テナントの負担」により「テナントの指定する施工業者」に発注する軽微な内装工事のことである。安全性や工程管理が問われることの無いパーテンション設置や電話工事などが代表例としてこれに該当するだろう。些細な事なら、テナントの発注・指定業者・費用負担で工事ができるのが一般的だ。
これらの問題点にも触れておく。A・B・C工事の中でB工事は、「テナントの費用負担」でありながら、「オーナーの指定する施工業者」が行う。よって、オーナーのコスト意識が希薄になり易い。オーナーの特命で受注する施工業者は、競合する相手がいないから割高な工事費の見積りを平然と出してくることがある。テナントは、原契約の定めであるから、不満があっても異議を申し立てにくい。
では、B工事とすべきものをC工事に仕分けするとどうなるか。これもまた問題が大きい。テナントがコスト削減を優先するあまり、「激安」が宣伝文句の無責任な施工業者に発注して養生もせずに突貫作業で行ったりするから共用部を汚損・毀損させて逃げることもある。他のテナントとエレベーターの使用方法で揉める、共用部に勝手に駐車する、と次々トラブルを発生させることになりかねない。
何となく「A・B・C工事」をご理解頂けただろうか。気付いて貰いたいのは用語解説に盛り込んだ「なぜそうなのか」の部分である。我々は、それを理解したうえで職務への「問題意識」も忘れてはならない。
進化論を唱えたダーウィンも「生き残る者」は「最も強い者」でも「最も賢い者」でもない、「変化できる者」なのだと言っている。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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