コラム№32「相場」にて不動産価格査定の基本的な考え方は、「取引事例比較法」「収益還元法」「原価法」の三つであることを述べた。今回のコラムでは、基本的ではない「我流」の査定方法について触れてみたい。残念ながら、築浅の大規模分譲マンションに限定すべき査定方法であり、「取引事例比較法」の一種に過ぎないのだが、単純明快で売主・買主の双方が納得し易い点を評価されたい。タワーマンションが多く、区分所有物件の取引が大半を占める当社の注力エリア(東京都中央区)では大いに役立つ手法である。
簡単に言うと「成約事例を分譲価格と対比し、その騰落率を基に対象住戸の査定価格を導き出す」ものである。言うなれば、「(分譲価格対比)騰落率比較法」である。新築分譲時の価格表を入手し、同じマンションの成約事例をレインズ(不動産流通機構)から可能な限り抽出して成約時期・成約価格・分譲価格対比の騰落率を価格表に書き込んで一覧にしてみると判り易い。
「貴方の住戸とは面積も間取りも違うけれども、今年○月に『このマンション』の○○○号室が4,200万円で売れました。その住戸は、分譲時の価格が4,000万円でしたから5%値上がりしたことになります。貴方の住戸は分譲時5,000万円でしたから、同等に値上がりしたと仮定すれば、5,250万円ということになります。それでは、その他の住戸とも同様の比較検証をしてみましょう。」といった流れの説明となる。とかく不動産会社は己に都合の良い近隣の比較事例を抽出、坪単価で説明して「煙に巻く」傾向があるが、(築浅である限り)同マンションの分譲価格対比の騰落率から妥当価格を算出するのが最も理に適った考え方であると思うのだ。
ところで、なぜ「築浅」が対象なのか。それは、時の経過と共に住戸毎の内装状態に格差が生まれるからである。同じマンションであってもリフォームに要する買主の時間的・金銭的負担を加味しなければ正しい査定とはならない。(築古の成約事例だと内装の状態まで推測することは難しい。)また、なぜ「大規模分譲」が対象なのか。それは、新築分譲時の価格表入手と多くの成約事例が必要になるからである。(築古は価格表が入手しづらい。小規模分譲では、少ない成約事例に査定結果が大きく左右されてしまう。)また、この査定方法は新築分譲時の個別値付が正しくなければ成立し得ない考え方である為、近年の大規模分譲における緻密で正当な評価の価格表を基に対比しなければ意味がない。マンション分譲の黎明期(昭和30~40年代)やバブル期における価格表はあまりにも杜撰な個別値付であると感じることが多い。また、水面下で個別に値引販売したことが疑われるバブル崩壊後のデフレ期も、価格表自体が信憑性に欠けて鵜呑みにできないのである。
私は、仲介会社が媒介契約を取得する為に横行する「創作(操作)価格」に等しい偽りの価格査定を冷ややかに見ている。売主のことを本当に思うなら「査定」と「意気込み」は分けて考えるべきだと思うし、自分に都合の悪い査定を頑なに排除してしまう売主にも問題があると思う。(コラム№1「矛盾」参照)そんなことだから、過剰に「売主の味方」を喧伝し、実現性に乏しい高値査定をもって代理・専属専任にて売主を囲い込もうとする同業者が多いのである。「買主が一方的に損をすれば良い」という考え方なのだろうか・・・。いずれ「偽物達」は、AI査定に駆逐されることになるだろう。
私は、「相場は、相場」であって、割高であっても欲しい人や割安でも手放さざるを得ない人がいるに過ぎないと思っている。同じ成約事例を根拠に査定価格が大きく異なること自体が不自然ではないか。売主・買主の希望額がぶつかり合うのは、市場の原理であり、自由・健全であるが、何らかの思惑を持った仲介人による片寄った値付ならば、高値であっても安値であっても信義則に反する。だから、私は査定書に「売出価格(=売主希望価格)」、「査定価格(=妥当価格・成約見込価格・落着予想価格)」、「下限価格(間違いなく売れるであろう価格、または当社の買取価格)」の三つを正直に提示する。
時に、売出価格(=売主希望価格)を「チャレンジ(高値挑戦)価格」と言い換えて売主に苦笑いされることもあるが、当社には既成約顧客との再取引が多い。「判る人には、判る」ということだと思う。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
オフィスランディックは中央区を中心とした住居・事務所・店舗の賃貸仲介をはじめ、管理、売買、リノベーションなど幅広く不動産サービスを提供しております。
茅場町・八丁堀の貸事務所・オフィス, 中央区の売買物件検索コラムカテゴリ