「クレーム産業」とまで揶揄される不動産業界。その「苦情」を良く調べてみれば、半数以上がユーザー側(入居者・購入者)の「勘違い」であり、的確な回答・対処法を心得ていれば「苦情」に発展することなく「笑い話(時に苦笑い)」で終わることすらあり、無駄な労力と経費を削減することができる。
「レンジフードが壊れている!煙を吸わない!」との緊急連絡。築古ならモーターの劣化を疑うべきだが、築浅物件に入居した直後の「苦情」なら、高確率で給気口を開けていないだけのことである。それでも給気不足なら窓をほんの少し開ければ劇的に改善する。「エアコンが壊れた!『コポコポ』と変な音がする!」も同様の給排気不足が原因であると見て良い。室内の空気を吸う為には、室外の空気を取り込まなければ循環し得ないことを優しく教えてあげよう。
「最近お風呂のお湯がちっとも熱くならないのよ。」これは、かなりの確率で給湯器の交換時期と思われるが、入居者が80才過ぎの高齢者の一人住まい、かつ5年以内に給湯器を交換済(今時の給湯器は10年位は壊れない。)の物件ならば、水温計(100円ショップの安物で充分)を持参して駆けつけてみることをお勧めする。42℃(ちょっと熱めの湯加減)に温度設定した後、水温計を沈めて目視確認して貰うと良い。きっと42℃が表示されていることと思う。高齢者は温度に対する感覚が鈍くなるのだ。真夏にエアコンを利用しないで熱中症になる高齢者が多いのもその為である。高齢者の尊厳を傷つけることなく判り易い説明を心掛けたい。
「上階が空室なのに物音がする。心霊現象?」そんな時は、隣接住戸のみならず近隣住戸の全てに騒音の発生源の可能性があることを意識して対処すべきである。「縦・横・斜め」想定外の離れた住戸からの騒音であることが予想される。実例だが、居宅と事務所が混在するマンションで上階の事務所Aと大揉め(警察を巻き込んでの大喧嘩)になった居住者Bさんの騒音問題、なんと原因は下階の事務所Cの輪転機(印刷機)の振動と稼働音が上階に伝わったものであった。
「天井付近から定期的に『ピッ』という信号音がする。小さな音だが煩わしい。」と通報を受けたならば、それは火災報知器の電池切れ(寿命)の警告音である可能性が高い。10年に一度程度のことでもあり、電池交換すれば済むのだが、いっそのこと新品に交換するのも一案だ。今時の商品は警告音と同時に警告ランプが点滅するものや音声で「電池切れです。」とアナウンスしてくれるものもある。換気扇のモーターの劣化なら「キュルキュル」とか「ガガー」とか耳障りな雑音であり信号音とは明らかに異なる。
リノベーション物件への入居直後の苦情。「トイレが壊れている!水が流れない!」聞けばキッチンの水は出ているというから元栓の開け忘れではない。洗浄便座の電気コードもコンセントに差してあると言う。こんな時は、分電盤を開け、メインブレーカー以外の「分岐された箇所(トイレと表示された部分)」を確認して貰うと良い。洗浄便座の壁付リモコンは電池式だが、便座に通電されていなければ電波を受け取れないのは当然のこと。但し、入居者を責めるのは筋違いである。「そんなこと」と言うのなら、そんなことすら事前に説明しておかなかった自らを反省すべきである。逆に「水が止まらない」などという時は、①タンク内の「浮き」が何らかの拍子で挟まって動かなくなっている。②「浮き」と「弁」を結ぶチェーン(またはバー)が外れただけ。③水栓レバーが劣化して戻りが悪くなっている、程度の単純な問題であることが多い。
日々遭遇する些細な「苦情」は枚挙に遑ないが、それなりの見識をもって冷静に対処すれば深刻なものは少ない。若手営業マンや新米家主なら知識・経験の蓄積の一過程と考えよう。動揺するユーザーと一緒になって大騒ぎをするよりも、プロとして問題の本質を見極める力と的確な解決方法(提案力)が求められているのである。最も重要なのは「未然に防ぐ」ことなのだが、「そのファインプレーは見えにくく、評価されづらい」と独り言(ご)つ。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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