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  • 思うところ55.「憂い」




    <2019.7.26記>
    私は、現在の不動産登記法のあり方に、そこはかとなく「憂い」を感じている。既に直面している法律の不備ながら、改革の速度が遅すぎるように思うのである。不動産業界のみならず、日本国の将来を憂いての「危機感」と言っても良い。老婆心に過ぎないのだろうか。「杞憂」に終わるなら良いのだが・・・。


    当社では珍しく郊外(当社の営業エリアは日本橋茅場町を起点に30分でスタッフが急行できる都心部)で土地を仲介した時のこと。実測図の作成を依頼した土地家屋調査士から悲鳴にも似た声で緊急連絡が入った。「む、無理です!」聞けば、隣接する広場(私有地)の登記名義人20名は、もはや誰一人としてご存命ではなく、大昔に村の広場を造る為に寄付をした有志の面々なのだと言う。故人の名誉として名を残すことが半ば慣習になっており、どの家も相続登記をしたがらない。真の所有者はその有志の相続人ら100人超であろうことが推定された。買主に事情を話してご理解頂き、広場の管理者である町内会長に境界立会いをして貰って事なきを得るも、不動産登記法の「歪み」を感じる一幕であった。世代交代とともに真の所有者は増え続け、その人々が国内のみならず、海外にも散って収拾がつかなくなることだろう。

    私道の持分も然り。土地の買主が戸建を新築すべく私道の土地所有者に水道・ガス引込の為の掘削承諾を得ようとしても真の所有者に辿り着かないことがある。道路として提供している為、公租公課の負担もないから、相続人は、所有していることすら忘れているのかもしれない。本来は、行政が公道として管理してくれると良いのだが、公共性の低さや予算の関係上、収用して貰うことは容易ではない。真の所有者が見つかっても、権利を濫用して過度な掘削承諾の対価を要求したり、建築させまいと掘削承諾を渋ることもある。また、土地の境界が確定できないことにより、流動性の低い「大き過ぎる土地」が分筆できず、戸建分譲事業の妨げにもなっている。

    ある街の駅前再開発の進行を阻害しているのは、過度な持分売買により国内どころか、所有者が世界に拡散してしまった分譲マンションの存在そのものである。小口でも投資でき、所有権という強固な権利を保有しながら、持分に比例した果実(賃料・運用益)が配分される仕組みの弊害が現実のものとなった。会員権売買だと投資家も判断しかねるが、不動産の所有権を保有できるものなら、分譲主(運営会社)を信頼して良いか確信が持てなかったとしても購入を決断し易かった(=分譲し易かった)のだろう。(ゴルフ場でも土地共有持分付の会員権なら同じことが起る。)ワンルームマンションを20人で共有して管理組合の運営には興味を示さないとしても法的に責任を問うことは難しい。

    投機的に不動産を所有する海外投資家の所有権登記のあり方も問題であると思う。特に分譲マンション等の区分所有物件においては、海外の住所で登記され、日本国内に窓口となる代理人がいないと管理組合に負担が掛かる。(やむなく別途「通信費」を徴収する管理組合も多い。)本人が管理組合の重要審議事項に関心が無くとも、そのコミュニティに住まう人々と同等の議決権を有するから軽んじる訳にもいかない。電話で管理組合総会の出席予定を確認しようにも、委任状を催促しようにも、「日本語」が通じない。

    海外投資家の積極的な「日本買い」が拡大している。住まいが自己居住用としての購入目的に限らず、投資用にも分譲されるようになってコミュニティのあり方や常識も大きく変わった。隣地に挨拶廻りすれば、すぐに建築(私道掘削)できる時代でもない。共有持分が株式と同じように細分化されてもお咎めは無い。相続でその「株分け」が進む。

    未来を見据えた政治的判断が求められている。憲法(私有財産制)やWTO(GATS「内国民待遇」)の遵守の大切さは重々承知しているが、「相続登記の義務化」「海外住所登記の是非(または代理人選出制度)」「区分所有権の過剰細分化の制限」等々、真剣に考えなければならない時である。次世代にその困難を押し付けることがあってはならないと憂いているのは私だけなのだろうか。


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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