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  • 思うところ56.「定借」





    定期借家制度(以下「定借」)は、平成12年(2000年)3月1日施行の「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」の中に導入されて誕生した。賃借人が過剰なまでに手厚く保護されていた従来の借家権を修正するには、必要な変革であったと思う。

    「定期借家権」という概念が生まれ、賃貸借期間(期限)が明確になることで、賃貸人と賃借人の間に所謂「Win-Win」の関係を築くことが容易になった。例を挙げるなら、老朽化したビルを取り壊す前に建築現場事務所として短期的に貸し出す場合などが当て嵌まるのではなかろうか。賃貸人からしてみれば、建物を取り壊す直前まで満室稼動(収益物件化)させることも可能になるし、そもそも建築現場に至近であることこそが重要であり、一定期間のみ借り受けたい賃借人には実害が無い。むしろ、短期定借ゆえの割安賃料にメリットを感じることが多いと思う。更に原状回復義務までもが免除されるなら、尚喜ばれるに違いない。

    居住用不動産においては、家主が海外・地方転勤中に期間限定にて自宅を貸し出すケースなどが定借の典型的事例である。勿論、その需要(入居希望)も旺盛であり、自宅の大規模修繕や建替の為にする仮住まいなどに最適である。自宅を収益物件化できる賃貸人と希少な短期賃借可能物件を探す賃借人とは、これもまた、「Win-Win」の関係であると言えるだろう。

    建替や売却時に法外な立退料が問題となる飲食店等の賃貸借契約にも「定借」が適する。賃借人が安心して設備投資できるよう長期の定めにしたとしても、将来起こりかねない立退き問題を回避できることになる。また、再契約を期待する賃借人の家賃滞納の抑止力にもなると思う。一方、普通借家契約においては、未だに「浮利を追って」自己都合で理不尽に退去を迫る賃貸人もいるし、「恩を仇で返す」がごとくの法外な立退料を要求する賃借人もいる。私には「不毛な争い事」に思えてならない。

    当社が、建物の築年数に応じて「定借」によるテナント募集を賃貸人に提案するのは、そのような訳である。少なくとも老朽化著しい建物の所有者は、将来的な修繕・建替・売却を意識して「定借」を活用すべきであると思う。建物の限界が近づいてからでは遅い。ある日突然に不動産を相続で取得した「俄か家主(賃貸人)」は、知識・経験不足から建物と賃貸の管理(BMとPM)に関して危機感が希薄だったりする。また、自分の不動産に愛着が強過ぎる家主も過去の成功体験が邪魔して運営方法が視野狭窄に陥っていることが多い。

    自分なりの年表を作成してみると判り易い。建物の構造・耐用年数にもよるが、①築年欄(堅固な建物で60年程度のマス目)②築年の下段に自分(所有者)の年齢欄③修繕履歴と今後の修繕計画欄④テナントの賃貸借期間と更新の予想欄、の4項目で充分である。作表したならば、①の築年欄につき、法定耐用年数(RC造=47年)と建替時期(予想・目標で可)に該当する欄を、②の年齢欄を男性は81才、女性は87才の欄を着色して貰いたい。法定耐用年数は建物の寿命の指標でもあり、その年齢は、日本人の男女別平均寿命であって相続の発生を意識せざるを得ない年次なのである。

    年表はあまり複雑にすべきでないが、思うところの相続人の年齢欄を加入したり、修繕費用の予算を加筆してみたり、と各々のテーマに沿った肉付けをして仕上げて欲しい。

    過去と未来を見据えたその年表を眺めるうちに、自ずと④の賃貸借期間の終盤に「定借」を当て嵌める必要性が垣間見えてくることだろう。新規募集は「定借」とし、そこから先は、段階的短期の再契約で調整していけば良いのである。

    建物も、人の体と同じく「永遠」は無い。


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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