<2019.10.17記>
私の自宅宛に不動産会社からダイレクトメール(以下「DM」)が届いた。昔と違って、登記事項など所定の手続きさえすれば、わざわざ法務局に出向かずともインターネット取得(所有者事項のみなら1件144円)できるから、私の住むマンションの所有者名義は既に名簿化され、全世帯宛に同様のDMが発送されているものと推察される。いつもは、読まずに捨ててしまうが、聞いたこともない差出人名が気になって読んでみた。
DMの内容を要約すると、①所有者が喜ぶ高めの簡易査定額(あなたのお部屋は今ならXXXX万円位です。)②「2020年問題」と称する不動産価格の下落予想③自社が如何に「売主の味方」であり、他社より高く売ることができるか、といった三部構成になっている。
DM冒頭の高値査定は、所有者の歓心を買う為に致し方ないのだろう。お笑いの世界で言うならば、「掴みはOK!」とでも言ったところか。次の展開は、売却への動機付け(売り煽り)となっている。来年(2020年)は、オリンピックの閉幕を契機として景気が冷え込み不動産価格も下がると断言している。「だからこそ今が売り時」であり、「売主の味方」であるその仲介会社に売却を任せれば「お得」なのだと。まあ良くあるDMである。
本コラムの読者ならお気付きだろう。試算してみれば判ることだが、仮に5,000万円の自宅が10%下落(▲500万円)したとしても、買替に要する往復の経費に賃貸住宅の仮住まい経費(家賃・引越代等)を加算するとその負担額が下落幅を上回りかねない矛盾点が浮き彫りとなる。更に矛盾すること甚だしいのは、不動産価格の下落予想をしておきながら、その仲介会社は、買主に「今が買い時!」と吹聴し、「買主の味方」を名乗るであろうことである。
確かに、「買い時」と納得できるその時まで、実家や社宅に身を寄せることができる恵まれた環境の人もいる。しかしながら、損得勘定で(都合の良い時だけ)実家を利用したり、子どもに転校を強いたりすることが本当に得策なのだろうか。私(=55才)と同世代ならば、仮住まいが長期化すれば、借入可能期間が短縮されて月額支払は負担増となりかねないし、病気・大怪我でもしようものなら住宅融資の再利用が危うくなる。
そもそも不動産価格が下がると決めつけて良いものだろうか。複雑に絡み合う世界経済にも左右される日本の不動産市況である。その騰落を断言できる程まで正確に読み解くことは難しい。景気が低迷すれば、為政者は景気浮揚の対策をするだろうし、現代の科学力をもってしても天災地変に関しては、未だ「神の領域」である。現に過去30年を振り返れば、大よそ経済評論家の予想と異なる結果になっている。
やはり、住替えは、不動産投資と一線を画してお考え頂くのが良いと思う。その点は、コラム№9「家」や№17「安心感」でも重々述べてきた。
以上のような御託(ゴタク)を並べて「家は、『損得』ではない」ことを力説していたら、私のプライベートまでをも良く知る人物から、漫才調のツッコミで「何を言う、三千万円控除を過去2度も使った貴方に言われたくはないですよっ!」と上げ足を取られてしまった。私は、サラリーマン時代、振り返れば「偶々」不動産市況の最悪期(=底値の時)に新築分譲の売れ残りを購入したに過ぎない。弁明するのも面倒なので苦笑いする外なかった。
※「三千万円控除」=自宅売却時に三千万円までの利益に関して無税となる税務上の特例、但し、三年に一度しか適用されない。また、ローン控除との併用も不可。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
オフィスランディックは中央区を中心とした住居・事務所・店舗の賃貸仲介をはじめ、管理、売買、リノベーションなど幅広く不動産サービスを提供しております。
茅場町・八丁堀の貸事務所・オフィス, 中央区の売買物件検索コラムカテゴリ