マンションの老朽化に伴い、多くの管理組合役員が、「大規模修繕」や「建替協議」の矢面に立って苦しんでいる。専門家でもないのに重大な決断を迫られたり、「総論賛成・各論反対」の気まぐれな管理組合員の自己中心的な発言により総会が紛糾したりする。
ふと思う。新築分譲時点で、徹底的に修繕を繰り返して超・長期に建物を維持しようとする「ヴィンテージ志向のマンション」とするのか、将来の建替時期を定めた「XX年後の建替決議付マンション」とするのか、予め仕分けしておけないものだろうか。管理規約の冒頭で「憲章」のように明文化した宣言をしておけば良いと思う。
なぜならば、「ペット飼育可」のマンションに犬好き・猫好きの人々が集まるように、「志向」が近い人々でコミュニティを形成した方が合理的だと思うのである。また、志向が違ったとしても、購入前に方向性が定まっているのならば、「容認事項」となるのであるから「火種」が無くなる。マンション供給側のデベロッパーも将来の修繕と建替に関する方針が決まっていた方が設計段階から構造・設備・仕様の工夫がし易い。
例えば、分譲会社(ディベロッパー)が、「ヴィンテージ志向」との販売方針を打ち出したのなら、心掛けるべき設計は、大規模修繕工事がし易い配線・配管である。また、腐蝕しない高価なステンレス管を用いても、100年コンクリート(最大で1㎡あたり約3,000tもの圧力に耐える強度を持ったコンクリートのこと)を用いても、その分の高値設定については、購入者が理解を示すと思うのである。建築デザイナーは、外壁資材に経年と共に「風合い・趣き」を醸し出す石材・タイルを採用して欲しい。(むしろ「古さ」が価値を生み出すのである。)建物管理会社は、「超・長期修繕計画」を立案しておく必要があるだろう。その結果、「ヴィンテージ志向」に賛同する人々が買い求めることとなる。
その様なことを考えるのは、古くとも歴史的建造物に近い素晴らしいマンションを沢山見てきたからである。逆を言えば、新しくとも心無い設計・デザインのマンションがあるのも事実だ。
「建替決議付マンション」は、建替決議の内容を登記できるようにした方が良い。公的なものでそれを明示することにより中古売買時における売主側の説明不足、買主側の錯誤による紛争を回避したい。建替時期を60年後と取り決めたならば、建替後に住まうのは、相続人になるかもしれない。(なるだろう。)だが、怒号飛び交う建替協議に巻き込まれる心配が無い。売却・賃貸・仮住まいをすべきタイミングも計画し易くなる。建替時期が到来したのなら、拠出金を割増して専有面積を拡張するのも良いし、一部換金して投資用に(貸し易く)面積を縮小するのも一案である。いずれにせよ、その時代の最新の設備・仕様の新築区画を手に入れることになる。勿論、拡張したい人に土地持分を全て売却して現金化する選択肢も用意されることだろう。土地持分という財産を保有することに何ら変わりがないのだから、「定期借家権付マンション」の建物取り壊し(資産価値0円)とは全く異なるものである。
昭和40年頃から積みあがった日本の分譲マンション供給戸数は累計600万戸を超えている。その内で旧耐震での供給戸数は約104万戸。旧耐震であろうが新耐震であろうが「永久」に傷まない建物は無いのだということをコラム№22「限界」でも述べた。また、物理的な問題のみならず、投資用マンションにおいては、管理組合役員のボランティア精神に委ねる管理運営も「限界」に近づいている。理事会にマンション管理士等の有資格者を迎え入れる、または理事長職を委託する、そんな時代になったのではないだろうか。
誰にもの申しているのか判らぬような「呟き」にも似た「提言」である。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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