思うところ65.「囲繞地(いにょうち)」 | 東京駅・茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ65.「囲繞地(いにょうち)」




    <2019.12.20>
    2004年からの民法現代語化により、死語となったはずの「囲繞地(いにょうち)」なる難読の法律用語、実のところ、我々不動産業界の者は、今でも普通に用いている。なぜなら代わりになる適切な用語が無いからだ。民法上、「袋地(=他の土地に囲まれて公道に通じていない土地)」の所有者は、「囲繞地(=袋地を囲い込んでいる方の土地)」を通行して公道に出入りできる権利(民法第210条「囲繞地通行権」)を有するものとされている。

    随分昔のことであるが、仲介人A君が、ある幹線道路沿いの古ビル(以下、建物「Bビル」、所有者「B氏」)を取引した時の出来事である。この「囲繞地通行権」の存在(の可能性)を売主であるB氏が売買契約直前まで隠していたことに端を発する紛争だった。まず、土地相関図を頭の中に描いて貰いたい。Bビルに隣接して同じく幹線道路に面するCアパート(以下、建物「C棟」、所有者「C氏」)、その裏手の袋地D古家(以下、建物「D宅」、所有者「D夫妻」)である。D宅が袋地にあると言っても、C棟の脇に約50cm幅の通路があり、幹線道路までの出入りは可能だ。しかもC棟の所有者C氏は、D妻の実弟である。

    だから、B氏が主張する通り、「囲繞地通行権は、本来一宅地であるものを分割して相続したC氏とD夫妻との間で解決すべき親族間の問題であり、全くの第三者である自分(B氏)の敷地内に発生するはずがない」との見解にも頷けるものがあった。しかしながら、Bビル敷地奥とD宅敷地の間に不自然な出入口がある。(階段と扉までが造作されている。)

    仕事に関しては正統派を自負するA君、念の為にBビル敷地内にD夫妻の通行権がないこと確認し、それを書面化すべくD宅を訪問した。その翌日から、D夫妻のご子息、B氏代理人の弁護士も登場しての大紛争となる。紙面が足りないので要点のみ次の通り記す。
    ①C氏とD夫妻は、相続時に「骨肉の争い」をした。以来、C氏は、D夫妻のC棟敷地への出入りを固く禁じた。凶暴なC氏に怯えるD夫妻は、C棟の通路を利用する気持ちになれなかった。
    ②「骨肉の争い」を見かねたBビル敷地の前々所有者(戦後間もない頃、当時「戸建」)は、D夫妻の懇願に応えて「軽い気持ち」で庭先を通ることを認めた。(通行料等の対価など無い「好意」として)
    ③人の良い前々所有者が、Bビルを建設することになる前所有者に土地を売却するに際し、「袋地に住むD夫妻が困っているから敷地内を通らせてやってくれ」と申し送りをした。「近所のよしみ」だと考えた前所有者もあまり深く考えずにD夫妻がBビル敷地の脇を通り抜けることを黙認し続けた。
    ④D夫妻とその息子は、将来の紛争・権利の主張に備えて前々所有者の戸建庭先だった頃から30年以上に渡ってD親子が通行している様子の写真を(構図を見て直感的に判る。おそらく意図的に)撮り貯めた。
    老朽化したBビルを前所有者からB氏に仲介した大手不動産会社は、(おそらく意図的に)別紙にて「500万円値引きする代わり、囲繞地通行権の問題は、B氏の責任と負担において協議解決すること」という主旨の覚書を締結した。

    恩を仇で返すかのごとく隣地庭先を奪おうとするD夫妻とその息子も、幹線道路側の優良資産を相続しておきながら実姉夫婦(D夫妻)を袋地に追いやるC氏も、安易な値引きで困難を買主(B氏)に押し付けた大手不動産会社も、それを隠して売ろうとするB氏も、皆「恥を知るべき」である。

    A君は、数千万円単位の大幅値引きをしてでもBビルの早期売却を最優先する(裁判を回避、換金を急ぐ)B氏の意向を尊重して、納得のいかない囲繞地通行権の範囲を書面化して商談を取り纏めるも「人の醜さ」に「虚しさ」を感じたそうである。

    平井堅さんの作詞・作曲「ノンフィクション」という歌に「優しい隣人が陰で牙を剥いていたり」というフレーズがある。A君がそのフレーズに共感を覚えるとしたら・・・あまりにも悲しい。


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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