<2020.2.4記>
ほんの数年前まで不動産のAI査定(AI:artfical intelligence=人工知能)など精度が低く「取るに足らない」ものであった。ところが、流動性の高い(成約事例の多い)都心部の大規模マンションに限って言えば、その実力を認めざるを得ない状況になりつつある。コラム№53「我流査定」をお読み頂ければ判るが、分譲価格(元値)と比較事例のデータが豊富な築浅物件なら然程難しいことではないから驚きもしない。
権利・形状が複雑な不動産に関しては、まだまだ我々が足を運ぶ実査定の精度が高いが、科学技術の日進月歩は目覚ましく、近年は囲碁や将棋の天才達が次々とAI棋士に打ち負かされている。照らし合わせれば、宅地建物取引士は疎か不動産鑑定士さえも軽んじられて株式市場のように日々の参考時価が指標としてネット上に表示されることになるかもしれない。現に居住用賃貸のマッチングサイトは貸主・借主を見事に最短距離で結び付けつつある。
IQ(Intelligence Quotient=知能指数)で人間がAIに完敗を認めざるを得ない時代である。自ずと次世代で注目されるのは、「EQ」になるだろう。「EQ」とは、「Emotional Intelligence Quotient=感情指数」の略で「心の知能指数」である。学術的な説明を抜きにすれば「心の豊かさ(=人間力)」ということだと思う。
私は、会社員時代秘かに分析して「学力」が営業成績と比例しないことに気付いていた。強引な営業手法や破滅的な長時間労働によって一時的な好成績を収める者は論外としても、高学歴の営業マンが必ずしも営業成績が良い訳ではないのである。持続可能な営業で求められるのは、非を認めて素直に改善する「修正力」や信頼に値する「誠実さ」、些末なことに動じない「大局観」等々、どれもが「IQ」よりも「EQ」で説明がつくものであった。勿論、「商品知識」や「手際の良さ」は重要であるが、人間離れした「記憶力」や「計算能力」は何ら決め手にならない。(むしろ、形だけの肩書や資格から発せられる無用な気位なら円満な商談に冷や水を浴びせかねない。)仮に、人類史上最高IQ300超の持ち主と言われるノイマン(ハンガリー出身の数学者)に不動産営業を任せたとしても常人の3倍の業績は期待できないだろう。
やがてAIに「自我」と「感情」が芽生え、EQでも追いつかれる時代が来る。財産・健康の管理、果ては政治に至るまでAIに過剰依存する社会となり、偶発的に「悪」のAIが誕生したらどうなるか。それが制御不能になるなら人類存亡の危機を迎えると言っても過言ではない。例えば、反社会的AIが暗号資産を何処かに移管(又は凍結)してしまうかもしれないし、不都合な要人が乗る航空機を墜落させることもできる。ワクチンの無いコンピュータウイルスをばら撒くこともできるから瞬時に全世界をパニックに陥れることが可能だ。(不動産業界では、不正な登記識別情報の符号書換えが横行)しかも、人類を敵視するAIが癌細胞のように増殖する可能性がある。姿・形のみならず、寿命すら無い凶悪な犯罪者(AI)が仮想空間を自由に逃げ回ることだろう。
天才物理学者アインシュタインにして「彼こそが天才」と言わしめたノイマンが考案した「ノイマン型コンピュータ」は、現在の殆どのコンピュータの動作原理になっている。しかしながら、その功績を認めると同時に戦時下の原子爆弾開発プロジェクト「マンハッタン計画」に深く関与した人物でもあることを忘れてはならない。核兵器の廃絶や戦争の根絶、科学技術の平和利用などを世界各国に訴えたアインシュタインとの対極を感じる。ノイマンの「EQ」は如何程のものか。
アインシュタインは、ノイマンを褒め称えた後、本当はこう言いたかったのではないか。「でもね、EQは明らかに僕の方が上」と。そもそも「褒める」という行為は、上位者なればこそできるものである。(「弟子」が「師匠」を褒めることはできない。)そして最後に「上とか、下とか、どうでも良いのだけどね。」と悪戯っ子のように舌を出しておどけて見せたに違いない。
幸いにもIQに比べEQは後天性の割合が高いとされる。ならば、己を磨いて数値を大きく伸ばしたいものだ。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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