コラム№47「掲示物」にて、中古マンションの管理運営の実態は、共用部に貼り出された「掲示物」で探ることができる、と述べたが、実はもう一つ注目すべき箇所がある。お察しの方も多いと思うが、それは、「ゴミ置場」である。こればかりは、建物管理会社がどんなに奮闘努力しても其処に住まう人達の風紀の乱れを隠しきれないし、逆に住民が如何にゴミ出しの規則を遵守したとしても、建物管理会社の怠慢により清掃の責務が果たされないならば、やがて風紀が乱れてゆく。
随分昔のことであるが、「もったいないなぁ。」と感じたオフィスビル(当社営業エリア外)があった。得難い好立地のビルにも拘わらず、建物管理があまりにも杜撰に思えたのである。そのビル専用の「ゴミ置場」を管理・清掃する人は無く、その開口部が常時道路側に開放されていることもあってゴミの不法投棄が多発していた。管理が甘いことを見透かされるのだろう、通行人も平然とゴミを其処に投げ捨てて行く。その状態を放置するから、近隣の住民が粗大ゴミまで不法投棄する始末であった。また、酔っ払いがトイレ代わりに立ち小便をするので常にその悪臭が漂ってもいた。よって、(ビルオーナーの運営方針は定かではないが、)本来の賃料設定や稼働率となっていなかったものと推察する。(当社の関与するビルではなく実態不明、勝手に分析するのは職業病的な習性)
「割れ(破れ)窓の理論」をご存じだろうか。建物の窓が割れているのを放置すると、その周辺でゴミの不法投棄等の軽犯罪が発生し易くなり、住民のモラルも低下して環境が悪化する。果ては、凶悪犯罪が多発するという犯罪学上の理論でアメリカの犯罪学者ジョージ・ケリング氏が唱えたものである。この理論を応用して成果を収めた高名な政治家と言えば、ルドルフ・ジュリアーニ氏(ニューヨーク市長として1994年~2001年在任)である。彼は、1980年代において犯罪多発都市であった「ニューヨーク市」の治安を回復すべく、軽犯罪を徹底的に取り締まることから改革を始め、見事に凶悪犯罪件数も劇的に減少(殺人・強盗件数が半減)させることに成功、就任から5年で世界でも屈指の人気観光都市となるまでに復活させた。前述の「ゴミ置場」にも、この理論が当て嵌まる。正しく管理すれば、賃料も稼働率も上方修正できるに違いない。
所謂「事務所マンション」で多発するのは、事業系ゴミの不法投棄である。中央区では、管理規約で用途を事務所とすることが認められたマンションが数多く存在するのだが、事業系のゴミには、容量に応じた有料シール貼付することが義務付けられている。(※行政区で規則は異なる)だから、居住者のゴミ(無償)に交じって大量にシュレッダーされた紙屑があると(規則違反と見做して)清掃車はそれを回収してくれなかったりする。しかしながら、「性善説」を前提にした管理規約のあり方や、同一のゴミ置場を利用せざるを得ない設計にも問題があると思う。また、個人情報の流失を防ごうと一般家庭でもシュレッダー機を多用するご時勢であり、その紙屑のみを纏めてゴミ出しをしたら事業用との区別はつかないはずである。どうやって判別しているのだろう。とても疑問である。
尚、家庭ゴミと謂えども、粗大ゴミは、行政への事前の届出と有料シールの貼付(※行政区で規則は異なる)が義務付けられているのだが、ゴミ置場に放置して引越し(逃亡)をする人が後を絶たない。ベッドやソファーなどは、間違いようの無い粗大ゴミであるから、おそらく確信犯である。その上、危険であることを知ってか、知らずか、カセットコンロ用のスプレー缶等が残量あるまま無造作に空き缶(資源ゴミ)の籠に入れられていたりする。残念ながら、「性悪説」を唱えた荀子(紀元前3世紀の中国の思想家)の言うことも分らぬでもない。
あるマンションのゴミ置場の不燃物コーナーに手提げ袋を見つけた。丁寧な字(赤字)で「割れたガラスです。くれぐれも気を付けて下さい!」と書かれたメモが添付されていた。清掃員が怪我せぬよう注意喚起するその気遣いに心が救われたような気がした。それでも、荀子(「性悪説」提唱者)と孟子(「性善説」提唱者)がゴミ置場で討論したならば、圧倒的に孟子の分が悪そうである。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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