思うところ83.「断水、その後」 | 東京駅・茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ83.「断水、その後」




    <2020.9.1記>
    私の住まうマンションは、エレベーターホールに管理組合の掲示板がある。ある日のこと、エレベーターの到着を待ちながら貼り出された理事会の報告書をぼんやりと眺めるうち、先日の雑排水管の「詰まり」のその後について書かれた報告箇所に目が留まった。本コラム№79「ディスポーザー」で取り上げた排水トラブルのことである。私はそのコラムにおいて、管理組合が手配する定期的な高圧洗浄作業に対し、居住者の非協力的な「マナー違反」を疑ったうえ、ディスポーザーで処理可能な食材に対する「知識不足」の可能性も指摘した。が、どうやら少し補足説明の必要がありそうだ。

    当該専門会社の調査によると、「配管(横引管)が長過ぎる設計そのものに問題があり、勾配不足が原因の一つ」と結論付けてあった。雑排水管の勾配不足により油汚れ等が堆積して軽石化した結果、その「詰まり(排水トラブル)」が発生したのだとの見解である。確かに居住者の不始末を庇うにはとても良くできた説明である。否応なく管理組合の非難の矛先は分譲会社・施工会社・設計会社に向かうことになるだろう。

    だが、穿った見方をするならば、築15年経過してから発覚する程度の勾配不足を「瑕疵(かし=欠陥)」とまで言い切れるものだろうか。設計者に弁明の機会を与えれば、「正常に機能するのは、高圧洗浄を定期的に行うことが前提」と主張するだろうし、堆積する食材(卵の殻・生米・大量の油等)を流すことが本当に無かったものか疑うだろう。互いに立証困難ゆえ「水掛け論」になることは間違いない。おそらく、分譲会社側と居住者の責任比率は、五分(50%:50%)が妥当なところではないだろうか。

    私の知る限り、築40年を経過してから汚水管の勾配不足が発覚したマンションもある。これも発覚するまでの期間を考えれば、管理組合が汚水管の勾配不足を断じるのは些か疑問に思う。おそらく旧所有者が売却を決断するまでの数年間を空室のまま放置したことにより、汚水管(鉄管)内表層の酸化が急速に進んで摩擦力が増したのだと思う。そう考えれば、旧所有者が40年間を問題無く過ごしながら新所有者が入居直後に遭遇した「糞尿逆流事件」の真相が見えてくる。問題の本質は、ミクロ単位の勾配不足を論うよりも、その年代(昭和40・50年代)のマンションに数多く見受けられる汚水管(横引管)の一部が下階の天井に食い込むような「後先考えない原設計」の方にあるのだが・・・。階高不足を補う為の「苦肉の策」は分らぬでもないが、専有管(管理組合の管理する共用管以外)でありながら、居住中の他住戸(他人)の天井を壊してまで改修工事(汚水管劣化部分の交換・勾配是正)を行うことなど不可能に近い。

    同じマンションであっても何らかの理由で空室のまま放置した部屋ほど給水管に「赤水(酸化第二鉄が水に溶け込んで赤く濁る現象、鉄分の過剰摂取は肝臓に負担大)」が発生する確率が高いのも、前述の「酸化」が急速に進むからではないだろうか。また、錆びないまでも夏場3ヶ月ほど空室のまま放置しただけでも、排水設備(洗濯防水パン・風呂場・キッチン・洗面台等)の下部に設けられた「S字トラップ(洗面ボウル下の配管が視覚的に判り易い、パイプがS字にくねっている。)」で弁(蓋)の役割を果たすはずの水が蒸発してしまい、(新築マンションでさえ)共用管から臭気が上がってくる。(故障ではない、水を差せば臭気は収まる。)要するに本コラム冒頭の「住んでいながら正しく使わない人」も良くないが、家を「放置する人」も、知らず知らずの内に己の大切な財産にダメージを与えているのである。

    ふと、祖母から「(家は生きている。)は人が住まなくなると駄目になっちゃうんだよ。」と聞かされたことを思い出した。祖母と孫とがなぜそんな会話をしたのか思い出せないが、「使わない=傷まない」と単純に考えた幼少期(幼稚園児)の私にとって意味不明の「おばあちゃんの知恵袋」であった。だから、「矛盾」を強く感じて記憶に残っているのである。当時は「ふ~ん。」と聞き流しておいたが、今は「なるほど!」と思う。特に戸建に関しては、代々大切に受け継がれた古民家が年を重ねる程に風格・風合いを醸し出して美しさを増していくのに比べ、平成築なのに放置されて「荒ら家(あばらや)」になってしまった実例が沢山ある。

    新築分譲時に取得したマンションの転売(所謂「転がし」)を目論んだある不動産会社が、「当社の保有するマンションは新築分譲されて以来、5年間完全未使用です!(だから、価値がある。)」と胸を張って販売していた。いやいや、5年も放置したら、精密機器始め、水廻り(特に給湯器)が傷みますから!


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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