思うところ84.「工程」 | 東京駅・茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ84.「工程」




    <2020.9.16記>
    ある不動産会社のA社長が一時の怒りに任せて長い付き合いの工務店(社員3人の零細企業)との取引を停止(出入り禁止)にしてしまったそうである。A社長が抜き打ちで現場を視察したところ、その日(偶々)現場が「もぬけの殻」だったことに腹を立てたらしい。いや、無人であったことよりも複数の現場を掛け持ちして工事を請け負っているのが許せなかったというのが事の真相のようだ。また、ある大工職人は、施主(不動産会社)から「チャッチャ(≒さっさ)と(短期間で)やれ!」と理不尽に急かされて、「チャッチャと(≒いい加減な仕事)なんて出来ません!」と口答えしたところ、「首にするぞ!!」と脅されたので「ええ、首で結構です。」と即座に現場を引き上げたそうだ。(共に10年程前の昔話)

    当社は、「委託者(施主)」たる不動産会社としてのみならず、リフォーム工事の建築請負業者として「受託者」の顔も併せ持つので、双方の気持ちが良く分る。両者の舞台裏を知る者として所見を述べておきたい。

    まず、A社長が理解しなければならないのは、設計・監理が万全の新築現場と違って、工事受託者(工務店・大工職人)の責に帰さない事由により、工事工程の「狭間」とでも言うべき何もできない「空白の期間」が発生し得るということである。例えば、区分所有マンションでスケルトンリフォーム工事(水廻りも一新するフルリフォーム)を行う場合、ユニットバスが受注生産である為、メーカーの担当者が室内解体後の現地調査(物理的な問題の有無確認)をしてからでないと受注してくれない。だから、ユニットバスが納品されるまでの間、大工職人は建具設置・造作工事に着手できないことがある。要するに、建具が仕上がらないとクロス職人も待たされるし、クロス貼りの完了を待つエアコン取付業者も、最終工程のハウスクリーニング業者も「玉突き事故的」に待機せざるを得ない相関関係となる、ということだ。

    また、前述のスケルトンリフォーム工事は、どうしても騒音・振動が伴う大掛かりな工事である為、近接住戸の入居者に配慮して工事が捗らないこともある。築地(魚河岸)関係者(朝帰宅して昼間就寝の生活スタイルの人)の上階をリフォームした時は、「うるさい、馬鹿野郎!」と現場に怒鳴り込まれ、通常1ヶ月で完成する工事に3ヶ月もの時間を要した。ある事務所マンションでは、「うるさくて仕事にならん、騒音の出る工事は昼休みにやれ!」と叱られた挙句、昼休みに工事をしたら、別室の事務所から「昼飯時に何をやっているんだ!」と激怒されたとの報告を受けた。大工職人がいくら事情を説明しても、「ならば、土日祝日に(工事を)やれ!」と論破され、土日祝日に工事をしようとしたら建物管理会社から「土日祝日は、居住者から苦情が出るから駄目!(規則違反)」と工事を阻止された。誰もが納得するような騒音・振動の解決策などそうそう見つかるものではないのである。

    裏返せば、工事工程を阻害する外的要因を全て排除し、緻密な設計・監理の下、資材・設備の全てを現物支給して各分野の熟練工を最大限投入できるならば、「秀吉の一夜城(墨俣城)」のごとく工期は3分の1で済むと思う。

    しかしながら、何もできない「空白の期間」に各種職人を送り込んでも意味が無い。人工(にんく)代も(都心部では駐車料金までもが)嵩む。無駄な経費は施主の利益にならないのである。だから、思い切って工事を休止(中断)した方が良いこともあるのだ。問題は、工事責任者が施主への説明責任を果たしていないことに尽きる。建築業界の常識を施主に押し付けるのは良くない。口下手な職人気質が裏目に出ている気がする。

    全体像を理解する私なら、「専属大工」と称する大工職人に他現場を掛け持ちしなければならない程に安定した仕事を発注できないことの方を恥じる。(集客力の無い)小さな工務店や一人親方の大工職人は、継続して適正な利益の出る仕事が供給されない限り、建築請負業として成り立たない。だから、大工仲間でその過不足を、時には「元請」、時には「下請(ヘルプ)」となって相互に仕事を補完し合うことが多いのである。「何が何でも毎日現場に出ろ!」と言うならば、下請職人に至るまで正規社員と同じく給与を支払わねばなるまい。だが、彼らがそれを望んでいないことも重々承知している。「自由気まま」を好み、組織に「隷属」することを嫌う。それもまた職人気質の特徴的な一面である。

    あっ、そうそう、最後に申し上げておく。冒頭に記した「施主に口答えしたその大工」、10年程前に私と出会って以来、今日も倅と一緒に当社のリフォーム現場でトッテンカンと汗を流している。何だかとても楽しそうだ。

     


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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