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  • 思うところ86.「特約」





    <2020.10.14記>
    改正民法(521条・522条)で基本原則が明文化された通り、不動産取引にも「契約自由の原則」があり、その「自由」の中に「内容の自由」も保障されている。つまり、法令を遵守する限りにおいては、様々な商談の取り纏め手法が考え得る、ということである。よって、不動産会社の力量の差が契約書の特約条項に表れることがある。

    「特約」と言っても、個人住宅の売買における「融資利用の特約(購入資金の融資不調の場合は白紙解約)」や「買替特約(買替資産の売却が不調の場合は白紙解約)」は、買主保護の観点から余りにも「当り前」過ぎてどの協会の書式(雛形)でも予め記載されている。その特約を適用しない契約の場合、「特約」で「特約」を(適用外として)打ち消すことになる位なものである。

    「特約」の上級編になると「第三者の為にする契約(の特約)」といったものがある。これは平成16年の不動産登記法の改正により、旧法では認められていた「中間省略登記」が受理されなくなって考案された「直接移転登記」のスキームである。改正当時、不動産の買取り転売をビジネスモデルとする不動産会社が「中間省略登記」が認められなくなることに対して一瞬浮足立ったが、蓋を開けてみれば何のことは無い、「特約」を付すことによって(所有権そのものは中間者ではなく第三者に直接移転するとの法解釈により)登録免許税不要どころか、不動産取得税までもが課税されなくなって不動産の流通をより促進することになっている。但し、高齢者の所有する不動産を狙って十分な「特約」の趣旨を理解させぬまま「手付転売」を繰り返す荒っぽい「輩」の横暴が気になっているところでもある。何ら買取り資金の根拠もないまま、「当社が(直に)買取りますから!」といった「輩」の甘言に騙されないで欲しい。その手の不動産取引の特徴は、「極端な少額手付金額」と「長過ぎる決済期限」にある。要するに、少リスクで大きな利幅の転売を図り、長らく転売先が見つからないなら、いっそ「手付流し(手付金を放棄)」をして合法的に逃げてしまおう、というのである。「旨い話」には「落とし穴」があることを肝に銘じて貰いたい。

    以上の「特約」は、どれも所詮「マニュアル」に過ぎない。私の言うところの力量の差が出る「特約」ではない。成長過程の営業マン(仲介人)には、もっと独創的な「特約」に挑戦して貰いたいものである。勿論、それは顧客にとって有益なものでなければならない。

    例えば、「段階賃料の特約」はどうだろう。起業を決意した若者が事務所を借り受けようとしたとする。開業資金の手当てに苦しむその若き起業家は、賃料の値引きが前提の入居申込をするかもしれない。その時、貸主にその起業家を応援したい気持ちがあると感じたならば、仲介人の立場から「段階賃料」を提案してみたら良いと思う。例えば、当初1年間は創業支援的に割安な賃料としても、1年を経過したら募集賃料(貸主の本来希望する賃料)に戻すといった特約である。賃料は二段階でも三段階でも構わない、それを「特約」としてありのまま明記すれば良いのである。その借主(起業家)は貸主に感謝して賃料を滞納することの無いよう努力するだろうし、貸主は空室が長引くよりも得策である。将来的には事業に成功して拡張移転してしまうかもしれないが、江戸の昔より大家(貸主)は、店子(たなこ=借主)に対して親の役目を果たしていた。「育てる」ことにも社会的意義がある。

    私の発案した「お掃除の特約(契約書内では、もう少し堅苦しい表現)」も我ながら面白いと思っている。ある小規模ビルの貸主が定期清掃業務の委託先に困っていた。確かに清掃業務の対象となるエントランスと通路・階段の総床面積は個人宅と変わらぬ程に小規模で外部委託するまでもない。しかし、貸主は遠隔地に住まうので通うことができない。また、週1回(30分程度)の時給換算のみで清掃業務を請負ってくれるような都合の良いアルバイトなど容易に見つかるものではない。そんな折、当該ビル1階飲食店舗を当社の仲介により契約することになった。そこで、裏事情を知る私は貸主に「お掃除の特約」を提案したのである。「この度入居するテナントに週1回の割合で共用部を掃除して貰ってはどうでしょう。その対価として月額1万円支払う取り決めとしませんか?」外部委託の10分の1程度の費用で済むことになる貸主も、ごく短時間の些細な労働を提供するだけで実質的に割安賃料の恩恵を受ける借主も、双方が大いに喜んでくれた。因みに特約で「賃料を1万円減額」ではなく、別途「業務委託契約書」を締結して「清掃費を1万円支払う(賃料と差引)」と表記したのは、心理的に「単なる賃料値引き」と混同して清掃業務に対する責任感が薄れてしまうからである。貸主と借主が共に喜び、商談を纏めた当社も嬉しく思う。これぞ近江商人の思想・行動哲学「三方良し」に相通ずるものと自画自賛する次第である。


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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