<2020.11.16記>
コラム(№84「工程」)でリフォーム工事の時間的(所要時間)マネジメントの難しさを述べた。(日頃の苦労を吐露するあまり過度に建築業界を擁護し過ぎたものと少し反省している。)さて、その続きの話になるのだが、本コラムにおいては、小規模・単発の工事費用(請負金額)の金銭的マネジメントの難しさについて触れてみたい。
まず、質を落とさずに工事費が割安に済むケースとしては、工事現場の規模が大きく、スケールメリットを充分に享受できる場合が挙げられる。資材・設備の大量仕入れをすることによって原価を抑え、一人の監理者のもと各分野の工事関係者を効率良く人員配置(=人件費の抑制)もできるからである。その意味では新築戸建の分譲も同じ理屈で1棟より10棟、10棟より100棟現場の方が建物原価を抑え込むことができる。(販管費も割安で済み利益を出し易い)また、大規模工事でなくとも分譲会社と施工会社との間で年間発注量の大枠を取り決め、「基本協定」を締結することによって同じ効果が期待できるかもしれない。
では、大規模開発事業と対照的な当社で取り扱う小規模・単発のリノベーション事業ではどの様にコストを削減しているのかを紹介する。紙面の都合もあり全てを語るものではないが、私の説明が説得力に欠けるものであれば、当社の仕入価格・販売価格及び品質に疑義が生じかねないことを危惧しつつ、である。
当社のコスト削減は、リフォームプランを「自社で企画」することから始まる。稀に設計士やデザイナーを頼ることもあるが、(「自社販売」故に)顧客の「声」に耳を傾けて「顧客が求めるもの」を把握している我々にとって、商品企画など外注するまでもないことである。(むしろ市場調査で意見を求められることが多い。)そのプランを大工職人(多能工)に直接発注、つまり「自社施工」とするのが最大の強みとなっている。また、当社は「質」の低下を招く「過当競争(工事費の値引合戦)」を望まない。だから、同時大量発注ができないまでも、年間を通じて特定の大工職人を指名して発注する。なぜなら、次の仕事を心配させたくないからである。そうでなければ、現場に専念できないと思う。「次」の仕事、「その次」の仕事の約束が、「今」の仕事に適度な緊張感をもたらして品質が担保されるのである。(大工職人は、当社の信頼を失えば「次」の仕事が無くなることを理解している。)だが、時代の流れに逆らうかのように人間(=信頼)関係を優先させながらも「元請・下請・孫請」の旧態然とした請負構造(丸投げ)による中間搾取は許さない。時に失敗もあろうが責任を感じて駆けつけてくる人間性を信じて残代金を工事完了日に全額支払う。実のところ、多めに支払う工事着手金と残代金の早期支払いにもコスト削減・品質向上の効果がある。資材・設備を割安で仕入れる為には即金払いは必要不可欠であるし、引く手あまたの熟練工は、同じ稼ぎなら即金払いの現場に集まる傾向にあるのだ。
あらゆる経費削減の努力をしても予算内に納まらない時、「切り札」として重要になるのがコラム№31でも述べた「VE」である。更なるコスト削減の為に力を注ぐべきは、VE(Value Engineering=設計・工法について機能を低下させることなくコスト削減を模索する代替案)を用いての解決策だ。断じて「手抜き工事」があってはならない。また、職人達に赤字受注を押し付けてもいけない。それは「弱い者いじめ」であり、信頼関係を損ないかねない非道の行いである。無理を強引に通せば、次なるプロジェクトに何らかの「歪み」が生ずることにもなる。トヨタ自動車の創業家が経費削減・業務改善する為に唱えた「乾いた雑巾を絞るように」を例にとっても、その対象は「知恵」のことであって、値引きを強要する「経費」のことではないと信ずる。
残念ながらリフォームの相談窓口となる営業マンでさえ「VE」などという言葉も、概念すらも知らない者が多い。ある工務店のベテラン営業マンに「何かVE案は無いの?」と問い質したところ、何のことかと動揺して目が泳いでいた。それでも建築に携わる者は、無意識の内に「VE」を実践している。価格が「ピンキリ」と言われるシステムキッチンの交換工事などが判り易い。例えば、「そこまで『Sie Matic社製(ドイツ製高級キッチン)』に拘らずとも、国産○○○社製のこれにしませんか?品質・デザインが劣るものではありません。それでいて100万円以上コストダウンできます。」といった顧客との会話も、営業マンが知らず知らずの内に「VE」を提案している一幕である。フローリングの貼替なら、「フローリングを重ね貼り(上貼り)に変更してはどうでしょう。経費削減、工期短縮ができるうえ、防音効果も増しますよ。」とか、風呂の改修工事なら「シャワーヘッドだけでも『GROHE(グローエ)』にしてみますか?」なんていう小技・裏技もある。
まぁ、専門用語のことなどどうでも良い。重視すべきはその「提案能力」と「志」である。能力あれども「安価で良質なものを提供しようとする「志」無き者ならば、より優れたVE案が披露されることなどあるまい。
だから、「VE(Value Engineering)とは?」と問われたなら、私は、「志ある創意工夫」だと訳して答えるだろう。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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