思うところ95.「幻の物件」 | 東京駅・茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ95.「幻の物件」





    <2021.3.1記>
    不動産広告を見て直ぐに問い合わせをしたにも拘わらず、「その物件は(売却・募集を)終了していますよ。」と言われて悔しい思いをした人が少なからずいるものと思う。人気物件では良くあることであるが、もしそれが「おとり広告」の類いなら、宅建業法32条及び不動産の表示に関する公正競争規約(表示規約)21条に違反する。実際には取引の対象となり得ない魅力的な物件を掲げる(誇大広告する)卑劣な手段で集客することがあってはならない。その罪は重く、悪質な広告を行った宅建業者は、免許の取り消し処分となることもある。しかしながら、当局の監視も世間の目も過剰なまでに厳しい令和の時代に「千三つ屋(=虚言家)」とか、周旋屋(不動産会社の蔑称)などと呼ばれる「輩達」が、不動産業界の黎明期に横行したと言われる「羊頭狗肉」のような商売をしているとは思えない。今回のコラムは、掴もうとしても掴み取ることができない、まるで蜃気楼のような「幻の物件」が出現する原因について考察してみたい。

    さて、我々不動産業界人は、不動産会社が加盟する指定流通機構「REINS(レインズ)」に登録された最新の不動産情報(コラム№61「仲人」参照)を入手できる立場にあるのだが、その我々ですら、登録されたその日に問い合わせても既に先順位の商談が入っていることがある。その流通機構で定められた登録期限内(媒介取得後、専任媒介7日以内、専属専任媒介5日以内)に物元業者(=売却を依頼された仲介会社)の顧客(直客)にて商談が進んでしまうこともあるし、再生再販が可能な物件であれば、情報公開日に買付(=購入申込)が殺到したりする。つまり、一般消費者が目にすることさえない「幻の物件」もあるということだ。

    不動産市場が活況を呈するエリア・時期における人気物件の新聞折込チラシにしても似たようなものである。新聞折込(配布)を発注した直後に商談が成立してしまうことも珍しくない。だからこそ、折込チラシには、広告有効期限の他に「広告作成年月日」も記載されているはずである。事情が呑み込めずに憤慨して不動産会社を「嘘つき」呼ばわりする人もいるが、防ぎようのないタイムラグは容認事項と考えるべきであるし、契約手続きに至っていない微妙な段階なら二番手の商談は歓迎されるものと思う。(不動産会社は、融資の不調や突然の破談等「不測の事態」を常に心配している。)

    尚、「賃貸」は、「売買」よりも動きが早い。賃貸マンションの見学時に不動産会社の営業マンから「(決断を急がないと)この物件はすぐに(他で)決まってしまいますよ。」と助言されたなら、その真偽を自身の心眼を以て見極めて欲しい。成果(申込の取得)を急ぐあまりの信義則に反する「煽り」行為は論外であるが、売買物件よりも流動性の高い都心部の賃貸物件なら事実である可能性もある。住替えのトップシーズンにおける手頃な価格帯のコンパクトタイプなど我々でも呆れる程に商談の進捗が早い。物件を内見せずに申込を入れる社宅代行会社も多いし、一般消費者が商談順位の確保のみを目的に恣意的な二股三股の入居申込をしてくることもある。よって、物件見学をしている内に物件が無くなってしまったり、突然(所謂「ドタキャン」にて)出現したりする。因みに、当社は原則として見学もせずにする申込を受け付けていない。(但し、やむを得ない事情があって内見せずとも「契約」する覚悟をお持ちの方の申込は時として受け付けている。)

    是非、「歩留(コラム№5参照)」を再読してから集客のプロセスを想像して貰いたい。インターネット広告においては、人気物件なら興味本位の人を含めて日に30人がTOP画面(物件概要)を閲覧(10日で300人)するだろう。その内10人程度は詳細画面(室内写真等)に移行(10日で100人)すると思う。その詳細画面まで検索する人達こそが本気で検討していると考えて良い。更にその内10人程度が資料請求や質問事項等の問い合わせをし、その問合せ者の中から不動産購入に本腰を入れた5人(組)以上が実物を見学するならば、(確率論として)成約に至る可能性は高い。売主・買主をどう円満に縁結びできるか仲介人の力量にもよるが、売却条件に柔軟性がある中古市場なら新築分譲事業程には集客を要しないのである。きっと、見学者の内1人は購入意思を示すことだろう。(賃貸物件なら更に成約率は高い)よって、案内(見学者)が多数であるにも拘わらず、購入希望者が現れないときは、物件訴求力と集客力の乖離を冷静に分析してターゲット層を見直す英断(売却条件の変更)が必要かもしれない。

    賃貸管理会社(PM会社)の情報発信が悪意もなく間違っていることもある。情報処理が取引の実態に追いつかないからだ。また、コラム№36で述べた「囲い込み」やコラム№37で述べた「抜き行為」といった悪質な営業手法も、コラム№89「整合性」でも述べた契約直前の「やっぱり売らない・貸さない」といった売主・貸主の翻意も「幻」の原因となりやすい。その他にも「幻の物件」が出現する原因は数え切れない程である。

    その昔、賃貸募集の広告が駅前不動産屋の店頭窓ガラスに貼紙をするだけだった頃、売買案件でさえ広告をチラシ宅配や新聞折込チラシに依存する紙媒体を主流としていた頃、情報の伝達が「遅過ぎて」問題が発生することが多かった。ところが、驚異的な情報伝達速度を実現させた現代(インターネット社会)では、「速過ぎて」情報が混乱する。また、情報過多がその混乱に拍車を掛ける。何とも皮肉な結果である。


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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