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  • 思うところ96.「マンション用地」




    <2021.3.15記>
    「マンション用地(以下「M用地」と略す。)の商談においては、「1種XXX万円」といった業界用語が良く使われる。「1種」の該当箇所を「容積率100%あたり」と置き換えると分かり易いだろう。「1種100万円」と言ったなら、その簡易査定の意味するところは、容積率200%の土地が坪200万円、容積率500%の土地なら坪500万円が相場だということを言っている。正確に申し上げるとその容積率は、有効容積率で考えるべきなので、都市計画が500%であっても、道路付や斜線等で制限されて480%になると「4.8種」であるし、何らかの緩和措置で容積率が20%UPされると「5.2種」と表現することになる。

    前述の通り、土地取得の目的がM用地ならば、地区計画等の容積率の緩和も勘案されるべきであるが、法定再開発や総合設計制度を利用した容積率の緩和まで掘り下げて考えると「簡易査定」の趣旨から逸れてしまう。また、正確を期した査定額を提示する必要があるなら、有資格者(一級建築士)のボリュームチェック(建物プラン作成)が欠かせないし、取得経費は勿論のこと、建築費や販管費まで積算のうえ、分譲時の市況も予測して出口戦略が適正であるかを検証しなければならない。それは不動産取引の進捗に合わせて取得希望者(分譲会社)が自己責任と独自の企画力を以て遂行すれば良いのであって、仲介人の簡易査定の段階においては、大局的に物事を考えることが肝要なのである。

    もし、「そんな用語や考え方は聞いたことがありません。」と言う営業マンがいたら、賃貸部門戸建・区分マンションを専門に取り扱うリテール部門に所属する者だと思う。確かに、一般個人向けの不動産取引の用語・考え方ではない。だが、事業用地を取り扱う部門の者にとって、その考え方は必要不可欠な基礎知識ではないだろうか。

    ところが、近頃?いや、かなり昔からこの「1種」なる用語の使い方がどうも怪しい。ベテランの営業マンであっても、然るべき知識の裏付けがあって会話しているように思えないことがあるのだ。分譲会社の仕入担当者から「この地域は、1種XXX万円位」と聞き齧った程度にしか思えないことがある。そんな時、饒舌に相場を語るその人は断片的な知識を掻き集めて「熟練の業界人」を演じているに過ぎないのでは?との懐疑的な思いに駆られてしまうのだ。

    さて、M用地としての適正な「1種単価」を導く為に何を精査すべきかを今一度確認しよう。究極まで簡素化して行う簡易査定なら、次の4項目に絞り込むことを提案する。まず、①新築分譲マンションの相場(平均坪単価=「A」)である。これは、対象地周辺の新築分譲事例と中古マンションの成約事例を比較検証すれば容易に判明するだろう。次に②施工費(建築費の坪単価=「B」)である。規模・設備・仕様・道路付等で施工費の相場は異なるし、物価・人件費の変動の影響を受けやすい。建築資材の殆どが輸入品なので時に為替動向までも影響する。よって、常日頃からゼネコン担当者と情報交換をしておいた方が良い。その次は、③「レンタブル比(専有面積÷総床面積)」である。できる限り精度の高い建築プランから読み取るのがベストだが、標準的な共同住宅ならレンタブル比は70%~80%位である。共用部(エントランス・共用施設・EV・非常階段・駐車場等々)を除外して販売対象となる正味(販売)面積を確認もせずに売上の予測などできないだろう。最後に④求めるべき「粗利率」である。目標とする利益を掲げることなく仕入値を導き出すことはできない。右肩上がりの市況なら粗利率20%でも成り立つかもしれないが、事業リスクを考えると多くの事業主が概ね粗利率30%確保を目標にしているのではないかと思う。多少薄利になっても「専有卸し(床卸し)」なる取引手法(建築確認まで取得して分譲会社に土地売り、ある種の業界内「分業」)によってリスク回避を優先する不動産会社もあるが、少なくとも純利益で10%を確保できない分譲プロジェクトは疑問である。仲介部門でさえ、片手(仲介)でも約3%、両手(仲介)なら約6%の果実が期待できる訳であるから、事業リスクを負いながら分譲事業の利益率が仲介報酬の近似値では意味が無いと思う。かと言って、過剰な粗利を得ようとすれば、M用地取得の苛烈な仕入価格競争の中で勝ち残ることはできない。

    私なら、レンタブル比の逆数と必要な粗利率を掛け合わせて頭の中に「係数(倍率)」を割り出しておく。「レンタブル比がXX%で粗利率XX%必要な時は、「係数」は1.XX倍(小数点第2位迄で良いだろう。)」といったように倍率表として整理しておくのが良い。仮定とする「1種単価」と前記Bを加算した総額にその「係数」を乗じたものが、新築分譲マンションの相場(A)の近似値になるなら、その「1種単価」は妥当である。大幅にAを超過するなら「1種単価」として高値過ぎる。仕入値を下方修正するか、VE(コラム№88参照)等により施工費を切り詰めたり、ユニット構成等商品企画そのものを見直したり、広告予算(一般的には総売上の2~3%程度)を削減したり、と何らかの創意工夫が必要となる。一方、Aより大幅な低値が算出されたなら仕入値の上方修正の余地があると考えられる。もし、その低値のまま仕入値で取得できるなら割安な分譲価格で「即日完売」を狙うこともできるし、施工費UP(=仕様UP)やレンタブル比縮小(=共用部を充実)をしてより魅力ある商品企画に改良できる。

    要するに、「(1種単価+B)×係数(倍率)≒A」が成立し得るかどうかを考えれば良いのである。これなら妥当なM用地の仕入値(概算)を即答(試算)できると思う。迅速に回答できてこその簡易査定であるのだ。だが、簡易査定ではあってもその結論に至った説明責任はある。不動産屋の「ヤマ勘」だけでは駄目だ。尚、係数は独自に研究・勉強して算出して貰いたい。以前にも述べたが、難しいことを難しく言うのは「学者」、簡単なことを難しく言うのは「役人」、真の政治家と我々(不動産業界の者)は、難しいことを分かり易く簡単に述べて、涼しい顔で「さらり」とやってのけるのが美しい。

     


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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