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  • 思うところ97.「インフレ」






    <2021.4.1記>
    誰もが不動産を「持つリスク」にも「持たざるリスク」にも晒されている。原因は、インフレーション(=inflation、通貨膨張、以下「インフレ」)とデフレーション(=Deflation、物価収縮、以下「デフレ」)である。私は、不動産業界にとって健全な経済成長を伴う緩やかな「インフレ」が最も望ましいと思っている。日本経済は、バブル経済崩壊後、長らく「デフレ」、所謂「デフレスパイラル」に苦しめられた。かと言って、不況と物価の持続的上昇が併存する悪性の「インフレ」、即ちスタグフレーション(=合成語:stagflation、例:1970年代2度のオイルショック)は誰も望まないであろうし、革命や戦争で引き起こされる極限状態の「インフレ」、即ちハイパーインフレーション( =Hyperinflation、超急激な通貨膨張)など「忌まわしきもの」だと言わざるを得ない。

    「インフレ」と言うと、1980年代後半から1990年代初頭の「バブル経済」を懐かしむ人もいるが、私は、「バブル経済」を実体験した世代として、その「危うさ」を痛感しており、株式・不動産といった資産が過剰なまでに高騰(暴騰)することを望まない。「実力」以上に評価されたもの程に脆弱であり、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」である。景気曲線の山が極端に高ければ、谷も極端に深くなる。その後の「デフレスパイラル」の渦に呑み込まれて消え去った企業は数知れないし、レバレッジ経営を信奉する多くの個人投資家が債務超過に陥った。実体経済と乖離した人為的な資産価値の高騰など一見甘そうに見えるビールの「泡」のごときものであり、実のところはほろ苦く、吹けば飛び散って杯の底が透けてしまうのである。我々は「Japan is(as) Number One」と賞賛されたと思い込み、超好景気に浮かれてドンチャン騒ぎの深酒をした挙句、酷い二日酔いに悩まされ続けたということではないだろうか。

    さて、何故緩やかな「インフレ」が望ましいかをリノベーション事業(中古マンションの再生再販事業)に当て嵌めて考えよう。我々の仕入時の商談を想像して貰いたい。「貴方がお持ちの不動産の価格は今後下がると思うので、今の相場は『100』だけれど、将来の下落を見越した『80』で譲って欲しい。」と確証の無い未来の「デフレ」を前提とした交渉ができるだろうか。否、いくら老朽化して再生(リフォーム)の必要がある不動産であったとしても、売主は過小評価に憤慨して怒り出すと思う。再生が完了して再販するにあたっても「これから資産価値は『80』まで下がると思うが、修繕に『20』の改良費を要したのだから、現在の相場『100』に改良費を加算した『120』で買って欲しい。」と提案できるだろうか。(否、「我欲」に呆れ信用してくれなくなる。)また、変動率著しい株価でもあるまいに『100』で仕入れた直後に『200』になったとしたら『100』で譲ってくれた人はどう思うだろう。また、『200』で販売した直後に、急激な値上がりの反動で『100』まで値を戻してしまったら、それを買ってくれた人はどう思うだろう。(双方から損をしたと恨まれかねない。)

    大規模タワーマンション(所謂「タワマン」)の新築分譲に当て嵌めて考えると更に分かり易い。一般的な「タワマン」の工期は階数+数ヶ月程度である。その上で1,000戸規模なら引渡~入居(引越)に半年位は要するだろう。よって、50階建の「タワマン」なら初期発売(未完成時)の契約手続きから入居完了まで3年近く掛かっても驚く程のことではない。その3年間の相場が横ばいでも特段の問題は発生しないと思うが、年率2%換算の価格上昇を重ねたなら引渡時の頃には買主の頬も緩んでいることだろう。また、購入価格比10%超もの値上りをすると売却益の確保を優先する取引が増える。近年、新築分譲に投機筋が参入して市況を過熱させているのも事実である。(短期譲渡税と売却経費を勘案すると、自己居住に供した後に「3,000万円控除の特例」の適用をお勧めするのだが・・・。)ところが、購入価格比10%超の下落幅になると、5%程度の手付金なら放棄(所謂「手付け流し」)をして解約を選択しかねない。購入価格比20%超下落する事態に陥れば、手付金10%を放棄して下落相場の中で他物件を買い直した方が得策になってしまう。(または、「含み損」の精神的重圧に耐えながらの新生活スタートになる。)要するに、売主・買主どちらの視点で考えても「デフレ」前提の不動産売買など好ましくないのである。

    そもそも為政者が正しく経国済民を抱いて景気の好循環を生み出そうとするなら自ずと緩やかな「インフレ」傾向になるはずである。それは短絡的な「ばら撒き政治」や、その場凌ぎの「需要の先喰い」の結果であってはならない。また、過ぎたる経済至上(優先)主義は、その持続が難しい上に地球の自然環境を破壊し尽くしかねないとも思っている。

    冒頭で申し上げた通り、健全な右肩上がりの上昇ライン(インフレ率)を期待しつつ、誰にとっても「Win-Win(三方良し)」の関係を築きたいと私は願う。また、「コロナ禍」対策とは謂えども、世界的金融緩和政策の副作用を少し心配もしている。


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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