思うところ99.「甘言」 | 東京駅・茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ99.「甘言」




    <2021.5.1記>
    随分昔の話であるが、販売図面を見て思わず吹き出してしまったことがある。「リフォーム要!」とセールスポイントと見紛うばかりの大文字で書いてあるのが衝撃的だったからだ。今一度申し上げるが「不要」でない、「要」である。(リフォーム要=「内装が傷んでいる」だからセールスポイントになり得ない。)備考欄に「融資(銀行)は紹介しません!」とお断り事項まで書いてある。その割には地図(案内図)すら無いし、掲載された間取図は手書きに近く見映えが悪い。しかも、紙面が単色で華やかさも全くない。要するに「物件は酷く傷んでいる。鍵は当社にあるから実物を見て(資金調達方法も含めて)自分で考えろ!」という無骨な内容だ。(本コラムは、タイトルを「甘言」としつつも前回コラム№98「苦言」の続編である。)

    意外に思われるかもしれないが、この「消極的」どころか「後ろ向き」の販売図面に対して私は「好感」を持った。なるほど、実物を見学してみたところ室内は想像以上に汚く、水廻り給排水管)を含めて抜本的に手直しをしない限り住めそうもない。もし、その販売図面が売主の目に留まれば、「物件をより良く見せるのが仕事ではないのか!」と逆鱗に触れるかもしれないが、買主の立場で考えると、経年劣化著しい物件を「空室につき即入居可!」などと苦し紛れの「甘言」を弄する仲介人の方にこそ嫌悪感を覚える。

    案の定、営業担当者はご高齢の社長兼営業マンであり、事務が苦手である為、間取図の作成を「しない」のではなく、「できない」だけのことだった。尚、「融資先を紹介しない」というのは、賃貸物件の取扱い経験しか無く売買案件に不慣れな為、「相談されても困る。」とのこと。また、「重要事項説明書」も買主側(仲介会社)で作成して欲しいとまで宣う。(慣習としては「売主側」が作成)だが、彼だけが鍵の管理を任されているという事実は、家主より信頼されていることの紛れもない証だ。美辞麗句を並べ立てるよりもシンプルに「鍵は当社が保管しています。」の簡潔な記述が仲介人(物元)としての「自信」をのぞかせる。長年その物件の賃貸管理を請負っていた実績がその背景にあることを推察できたのである。

    断っておくが、あくまでも「整合性」に関して「好感」を持ったのみであり、「賞賛」するに値するものではない。当社の社員が同じ物(資料)を作ったら叱るだろう。やはり同業者向けの販売図面とて綺麗に作るべきだし、セールスポイントが全く無いとうことはなかろう。特に専有面積を公簿(登記簿記載の内法面積)のみの記載していたのは少し乱暴過ぎる。一般的には、壁芯面積(壁の中心線で計測した面積)の記載で問題無い。(住宅融資適用や税務上の軽減措置の可否が分かれる微妙な専有面積なら併記すべき)

    だが、不動産を「売らんが為」に「甘言」を弄することに意味があるのだろうか。ある物件を「安い!」と思って買付(購入申込書)を差し入れるべく謄本(登記事項証明書)を取得したところ、甲区欄(所有権に関する事項欄)の取得原因が「X年X月X日頃からX年X月X日頃までの間相続」と書いてあった。つまり、不自然な廉価を勘案すると従前の所有者は死亡時期不明の遺体腐乱を伴う「孤独死」だったと推定される記載(消せない履歴という意味ではある種の「デジタル・タトゥ」)があったのである。仲介人に問い質すと「自然死であって事件性が無いから『告知事項』ではない。(夏場とは言え、)浴槽で亡くなったから部屋が綺麗なのは事実である。それに『連絡事項有り』とちゃんと書いてありますよ。」と開き直る。目を凝らして販売図面を確認すると、確かに物件概要欄枠外(仲介人の連絡先がある下帯)の担当者名の横にとても小さな文字で「告知事項」ではなく「連絡事項」有りと書いてあった。そんなものは「屁理屈」に過ぎない。

    ある不動産会社(売主)は、増築未登記部分があって違法性が疑われる区分所有マンションにつき、違法性の可能性ばかりか特別修繕積立金の存在も明記せずに販売図面を流通機構に登録して手付転売(コラム№86「特約」参照)を目論んでいた。同業者向けの資料とは言え、それを元に仲介会社が広告物を作成するだろうし、投資家が実質利回りを誤認しかねないので指摘すると「特別修繕積立金は転売先が決まり次第に当社が徴収期間3年分を一括して前払いする予定だから記載する必要が無い。間取りは、『現況優先』と書いてあるではないか!」と逆ギレである。そんな「輩達」が未だにこの業界を闊歩するから「不動産会社=千三つ屋(嘘つき)」と揶揄されるのである。

    不動産会社の新入社員が書く研修レポートに「夢を売る仕事」という喩えが良く使われるそうである。そもそも其の教育が間違っていると思う。綺麗事を言うこと勿れ、我々は、「夢」や「」を売っているのではない。現(うつつ)の「不動産」を売っているのである。「巧言令色」を以て「羊頭狗肉」の取引をしてはならない。

     


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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