思うところ１０２．「鼠」 | 東京駅・茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

思うところ１０２．「鼠」

＜2021.6.14＞
本コラム欄で過去2度ほど「鼠」が登場している。コラム№2「ファインプレー」でも、№45「ハト小屋」でも悪者（被害：漏電火災・漏水事故・病原菌拡散・食糧奪取・家財損壊等）として登場した。この度、あるマンションの漏水事故に関する総会議事録を読んで「改めて（鼠を）取り上げねば、」と思った。なぜなら、ここ数年、その議事録同様の鼠被害が徐々に増えていると感じているからである。

今、鼠被害が東京都心部（中央区）で静かに拡大している。まことしやかに「築地の移転」に伴う鼠の大移動を原因に挙げる同業者もいるが、それは原因のごく一部であって、私は「地球温暖化」の影響が一番大きいと思っている。（鼠は寒いのが苦手）また、アスファルトに覆われて緑地の少ない都心部では、天敵の蛇も猛禽類（フクロウ・トンビ等）も（ほぼ）生息しないから、彼らから見ると食物連鎖の下層にいる鼠にとって、過酷な生存競争に晒されることのない恵まれた生態系になっている。戸外に出ることが許されぬ家猫に鼠撃退の期待はできないし、仮に戸外を闊歩する猫がいたとしても贅沢な食餌に慣れて鼠を餌と見做さないだろう。一方、鼠の餌となる人間が排出する生ゴミは街に溢れ、不足なら飲食店や人の生活空間に容易に忍び込む。要するに都心部は、「気候」「生態系」「食糧事情」等、あらゆる面で鼠の大繁殖に適した環境が整っているのである。

まず、鼠の大繁殖を起因とする「健康被害」に触れておこう。鼠は様々な菌をまき散らすことが良く知られている。「サルモネラ菌」による食中毒が代表例だが、その他にも鼠を自然宿主とする「ハンタウイルス」や「レプトスピラ菌」がより深刻な健康被害をもたらす。また、鼠の血液を餌とする「イエダニ」が人間の肌に附着して刺せば、腫れや痒みの原因となるばかりか、人によってはアレルギー症状が出る。同じく鼠に寄生するダニの一種、「ツツガムシ（病原菌リケッチアを保有）」は更に要注意の害虫であり、その幼虫は人の体液を吸って「ツツガムシ病」に感染させる。その症状は「高熱」、「発疹」に止まらず、時として重症化して多臓器不全を引き起こす。

私の専門外である「健康被害」のことはさておき、不動産業界人として最も問題視するのは、「建材を囓る」ことである。齧歯類である鼠の歯は一生伸び続けるからあらゆる資材を齧りまくる。（囓ることによって正常な歯の長さが保たれる。）その資材が電気系統のケーブルであれば、漏電事故に繋がり、停電どころか漏電火災に至ることもある。また、給排水管も囓って漏水事故を発生させる。「火」の事故も、「水」の事故も金銭的損害が甚大であるばかりか、時に人命さえも脅かすものであり、人間の立場から見たらとても迷惑な「歯磨き」である。（因みに、食い散らかしたかに見える断熱材（グラスウール）は、「歯磨き」ではなく、巣作りに丁度良いらしくバラして持ち去る。）

リフォームで使う新素材の給水管（架橋ポリエチレン管）も更に改良すべきではないだろうか。錆びやすい鉄管、割れやすい塩ビ管の時代に逆戻りしてはならないが、せめて腐食しにくい金属製の網で給水管を覆う等、何らかの防御策を講じる必要があるのではないかと思う。架橋ポリエチレン管に代わる「腐食の心配が無く、安価で軽く柔軟性に優れ、かつ大地震と鼠の歯にも耐えうる強度」の画期的な新素材の開発に期待したい。排除するだけが目的の忌避剤は根本的解決にならない。鼠駆除に関する行政の的確な対策と指導の他、飲食業界にも更なる自助努力が求められる。（鼠被害のあるマンションには必ずと言って良い程に飲食店が入所している。）我々一般市民も他力本願であってはならないと思う。家庭ゴミの捨て方一つにも改善の余地があるだろう。

「鼠算式」という言い回しに象徴される通り鼠の繁殖スピードはとても早い。このまま放置すれば被害が拡大する。タワーマンションの漏電火災など想像もしたくない。ある日突然、部屋中が水浸しになるかもしれないのである。被害が表面化してから騒ぐのではなく、未然に防ぐことにこそ力を注ぐべきと思う。

困ったことに、害虫・害獣の被害は火災保険の対象外（免責事項）とされている。その点も被害に遭ってから初めて気付いて慌てふためくことの無きよう、しかと心に留め置かれたい。