<2021.7.1記>
住宅の商品企画をする上で、設備・仕様の改善・改良は、世界的人気アニメ「ドラえもん」の主題歌のごとく「こんな家があったらいいなぁ。」とか、「こんな設備があれば便利なのになぁ。」とか、ほんの思いつきの些細な「願望」に端を発することが多い。現代の水道の普及は井戸水を汲み上げて手運びする重労働から解放されたいという何世代にも渡る積年の「切望」のレベルであったと思うが、わが国発の温水洗浄便座といった奇想天外な発明品は、多くの人々の小さな願いが集約されて実現したものと思う。その中には、ディスポーザー(キッチン備付の生ゴミ粉砕処理機)といった贅沢な設備もあれば、エアコンのように「あったらいいな」どころか「無くては困る」設備として定着したものもある。これからも「願望」に応えるアイデア商品が沢山生み出されることだろう。残念ながら、どんなに熱望したとしても「どこでもドア」という建具の発明は流石に絶望的だと思うものの。
さて、私の不動産に関する「願望」を一つ挙げるならば、設備・仕様に関してではなく、「管理費・修繕積立金:0円、&一時金徴収無し」の分譲マンションの「仕組(作り)」が真っ先に思い浮かぶ。それは、「実現できるはずだ。」との思いが胸中何処かにあるからこそでもある。特に時の経過と共に管理組合の財務が悪化しやすい総戸数20戸以下の分譲マンションなどに対してそう思う。
小規模分譲マンション(特に「投資用」)を手掛ける分譲会社にありがちなことだが、「売らんが為」に(将来、修繕費用が不足することが分っていながら、)周辺の平均的な共益費(管理費・修繕積立金等)の単価を意識して同等の設定にしてしまうのである。そうでないと売れない(売りにくい)からだ。意外にも購入者がその問題に対して無頓着であることが多い。敢えて割高な共益費を望む人はいないだろう、薄々は分っていながらも問題点から目を背けているのかもしれない。
確かに問題の本質を見抜けないのもやむを得ない面もある。将来の修繕工事の必要額と積立予想額に整合性があるかを正確に分析できる人は少ない。また、築20年、築30年先の管理運営上の財務的困窮など実感が湧かないのだと思う。だが、エレベーターの更新工事費用は、1基だけでも500万円超、1,000万円に近くであるし、総戸数20戸程度の建物でも足場を掛けて外壁塗装・屋上防水塗装の工事を行うとなると確実に1,000万円を超える。給排水管の更新工事に至っては、遙かに高額な費用が必要となることを知って驚愕することになるだろう。
穿った見方をすれば、新築分譲時から既に将来の財務的破綻が始まっているコミュニティもあると考えられる。大規模分譲マンションと違ってスケールメリットの恩恵を享受できない小規模なコミュニティは、築後10年も経過すれば、「共益費を値上げする」か、「管理の質(管理員の勤務日数・時間・委託内容)を落とす」か、「一時金を徴収する」等、何らかの選択を迫られることが多い。尚、管理組合の管理費・修繕積立金の不足を補う財源としては、敷地内駐車場を主軸に、バイク置場、駐輪場等の使用料といった内部(区分所有者)から徴収するものもあれば、屋上広告塔・携帯電話基地局・自動販売機置場等、外部からの収益を見込むものもある。そういった財源の無い小規模コミュニティは、どんなに理事会が節約しても分譲時の安値設定の共益費のままなら修繕積立金の必要額は貯まらないと思うのである。
そこで思うのだが、分譲予定に区分店舗があるなら、思い切ってそれを非分譲とし、管理組合の所有(収益物件化)としたらどうだろう。分譲会社の立場としては、利益を単純に喪失することはできないであろうから、各戸に店舗の分譲対価を上乗せ(配分)して分譲すれば良い。仮に平均200万円程度高値の分譲価格になったとしても、店舗の共有持分付売買と考えれば矛盾しないし、月額共益費2万円が0円にできる合理的な根拠となるなら購入者の理解が得られるのではないだろうか。なぜなら、その200万円を余分に借入れたとしても、借入期間35年・適用金利2%の住宅融資で試算すると月額6,625円の支払い(金利1%なら月額5,645円、金利4%でも月額8,855円)である。住宅融資を利用できない人にも共益費の値上げ・一時金徴収といった将来不安を払拭できるメリットがある。信頼に値する分譲会社なら、サブリース事業の一環として長期に借り上げて貰う(分譲会社が転貸)と良いだろう。20年後は大規模修繕費捻出の為にその区画を売却して一時金徴収を回避するという選択肢もできる。
区分店舗の非分譲及び管理組合への帰属化(及び収益物件化)は、ほんの思いつきのアイデアであるから緻密な検証をしてみたことはない。「あったらいいな」と思うに過ぎず、本来非営利目的の管理組合に各種税金が発生してしまう問題、その管理運営・経理処理を誰が担うか、空室時の無収入対策等、解決が容易でない点も多い。
そうかと言って、コミュニティのスラム化、建物の劣化を放置するわけには行くまい。行政も「限界マンション」の調査(末尾備考欄参照)に動き始めている。いずれ官民が協力して何らかの対策(仕組作り)が必要になることだろう。
備考:東京都においては、昭和58年12月31日以前に新築された分譲マンションの内、居住の用に供する独立部分が6戸以上であるものに対して条例に基づく「管理状況届出制度」を令和2年4月1日から開始している。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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