<2021.7.14記>
不動産の細分化の最たるものは区分所有マンションだと思う。50億円のマンションを一括して購入できる個人はそういないと思うが、都心部で平均価格5,000万円のファミリータイプ100戸なら然程難しい分譲事業ではない。戸建も敷地500坪の大邸宅を購入できる人は一握りの富裕層であるが、敷地50坪(延床30坪程度)の建売住宅の人気は根強い。細分化によって「流動性比率」が高まるということは、「買い易くなった分、上値を追うことができる。」と解釈すれば良いのである。つまり、不動産会社の査定書にこの数値が1.03と書かれていたなら、「売り易い物件だから、3%位は価格をUPしても大丈夫」ということであり、逆に「流動性比率」が1未満なら、何らかの理由で売りにくいから割安感(補正)が必要ということを意味している。
賃貸市場も同じ理屈が当て嵌まり、家賃100万円の支払いを会社の補助も無しに継続して支払うことが可能な個人は少ないが、10万円以下の単身・ディンクス向けコンパクトタイプのマンションの需要は多い。郊外も都心部から離れるに従って価格帯こそ比例して小さくなるものの、末広がりの需要のピラミッド型の図形が大きく崩れることはないだろう。
また、不動産の証券化にしても同じこと。小口になれば「流動性」が高まる。だが、小口化が流通促進の起爆剤となれば全て良いという訳ではなく、2001 年の商法改正(規制緩和)に便乗して横行した過剰なまでの株式分割などは合法と謂えども疑問に思った。成長戦略が無いままにする実質的には増配を伴わない分割ならば、流動性のみを高めて株価上昇を狙ったものだろう。2006年の有名な経済犯罪事件の際、違法な粉飾決算よりも当時の経営者が行った異常な株式細分化の方が合法だからこそ気になった。安易な株価操作の思惑が透けて見えた気がして嫌悪感を覚えたのである。
私は、コラム№58「コンパクト」で不動産投資における細分化(分散投資)の利点を述べる一方、コラム№55「憂い」では細分化のリスクを憂いている。最近少し気になるのは、中古ビルの区分所有化である。ビル一棟を区分登記し直して分譲することに法的な問題は無く、自社ビルを夢見る経営者にとって同一フロアの移動で済む使い易いオフィスであり、何よりもビル一棟の価格に比べて手頃な価格帯になることが多いのだ。そのうえで建物償却による節税効果をも期待できる等、メリットが多々あるからこそ売買が成立するのだと思う。しかしながら、区分オフィスの中古市場は未成熟であり、不測の事態にマンションの中古市場のような流動性(換金スピード)は期待できないことを覚悟すべきとも思う。尚、私が最も懸念しているのは、将来的な大規模修繕工事の費用負担や老朽化による建替協議の足並みが揃うか否かである。区分所有者毎に財務的好不調の波は異なるにも拘わらず、その負担額が大きいことを認識しておかねばなるまい。他のフロアの区分所有者(事業者)が倒産することさえあることも。
健全な小口化の例を挙げるなら、コラム№6「掛け値」で紹介した三越創業者のイノベーションだろう。1673年、江戸日本橋に屋号を「越後屋」として呉服店(三越の前身)を開業した三井高利翁は、それまでの「掛け値」が当然の大口取引限定の商慣習を廃し、現金取引による正札(定価)にて商品(反物)の売買単位を縮小、庶民に至るまで購買層を拡大(新購買層を創出)して圧倒的な支持を得た。
言うなれば、不動産も「カットフルーツ」のような細分化が望ましい。スイカ一玉は力自慢の男性でさえ重くて帰宅途中に気軽に買うことはできないと思う。ところが4分の1カットなら女性でも持ち帰ることができる。(か弱い方なら8分の1カットをお勧めする。)果肉の十分な赤みを目視確認して納得の選択ができるし、独身者も適量で買い易い。また、売主は売れ残りを心配すること無く常に新鮮なものを供給できる。カット&ラッピングの手間を掛けても「売り易さ」が勝り、その必要経費を上乗せされたとしても「買い易さ」が勝ることだろう。
ん、「小玉スイカなら?」いやいやそういう話ではなく、細分化にも「大義」が必要であり、「WIN- WIN」の関係が大切だと言うことを申し上げている。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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