<2021.9.1記>
コラム№104の「細分化」は、単に不動産の「空間(=区画形質の変更)」によるものを述べている。しかしながら、不動産には「時」を刻む、即ち「使用時間」を細分化することによっても流動性を高め、より大きな利益を追求できる経営手法が数多く存在する。それらは需要に応えて自然発生したビジネスモデルであって、謂わば「当り前」の結果に過ぎない。よって、掘り下げて難しく考える必要など無いのだが・・・。
例えば、2年毎更新が一般的である居住用賃貸物件を1ヶ月単位(所謂「マンスリーマンション」)で貸し出せば、仮住まい等の特殊需要も吸収して通常賃貸比1割程度の割増賃料が期待できると思う。更に使用期間を細分化して家具付の「ウイークリーマンション」にするならば、旅行や出張時のホテル代わりにもなるから、通常賃貸比2割増しの賃料でも割安と感じる入居(宿泊)希望者がいるだろう。2018年施行の住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づく「民泊」は、年間の営業日数が180日以下に制限されたことで下火になってしまったが、規制緩和次第では「ウイークリーマンション」よりも大きな利益を生み出す可能性を秘めている。
「一泊」どころか「休憩」といったところまで「時」を刻むことのできる旅館業法に基づくホテル・旅館の収益性なら、「設備・仕様」の差別化と「おもてなし」の効果もあってその上を行くだろう。「空間」の細分化に「時」の細分化を併せ、「経費」を掛けてまでする事業化であるのだから、(「コロナ禍」は例外としても、)そうであらねばならないと思う。
事務所を時間貸しすることによっても同じ現象(収益UP)が起こる。広い事務所なら用途を「貸会議室」としても良い。単に「シェアオフィス」とするなら「空間」の細分化と考えるべきだが、それを「時間的」に細分化(会員制の時間貸し)するなら、「コワーキングスペース」ということになる。(コワーキングスペース:個人事業主らが集まって会議室や設備を共用しながら独自に仕事する場所)
物販店舗やスペースの短期貸しは珍しくもなく、カラオケ店・各種スタジオ・屋台等の時間貸しはビジネスモデルとして既に確立されたものであると思う。ところが、最近では同一店舗を昼間と夜間に分離して賃貸借(例:昼間「喫茶・食事処」、夜間「居酒屋」)が成立することさえある。確かに居抜店舗の厨房機器を共用できるのなら、家賃も設備投資も軽減されて出店し易い。24時間体制で働くことができない個人事業主の弱点も補うことができる。それでいて家主が受け取る家賃の総額は同等以上になるのである。
余談だが、所謂「ラブホテル」に大勢集まってカラオケやオフ会をする人達(特に女性陣)もいるらしい。飲食もできて音響設備まで整っている環境を短時間のみ借り受けて「割勘」にすれば、「超割安」になると考えているのである。大画面のTVモニターを利用できることに目を付けたアイドルヲタクの集いなど大層盛り上がるそうである。そう言えば、先日「時間貸しオフィス」にお酒を持ち込み、飲んで騒いだ若者達がいて近隣住民から苦情があった。これも「コロナ禍」の皺寄せと見做して大目に見るべきなのだろうか・・・。いや、人に迷惑を掛けてはいけない。
閑話休題、話を本題(時刻)に戻そう。区画割りされた駐車場とて同じことである。当社の営業拠点である日本橋茅場町駅周辺では、平置駐車場ともなると月額5万円超であるが、時間貸しで運用すれば、月額10万円超の売り上げが期待できる。(30分単位で駐車料金を300円、一日平均8時間として30日稼働させたとすれば14.4万円である。月額賃料の3倍近くになる計算だ。)
だが、安直な「細分化」は禁物である。表面的な「売上」のみを伸ばすだけでは意味が無い。「細分化」により生ずる「広告費」や「人件費」、「設備投資」も含めた諸々の経費(固定費・流動費)を差し引いても増益となる必要がある。また、事業リスク(浮き沈み)が常に付き纏うことも肝に銘じておかねばなるまい。昨今の「コロナ禍」で陥っている事業者の苦難を目の当たりにすれば分かることと思う。
それでも、不動産の運用に苦しむ時、「空間」を刻むことの他、「時」を刻む、若しくはその「合わせ技」で活路を見出すことができるかもしれないことを本コラム欄に書き記しておきたかった。詰まらぬ「釈迦に説法」をどうかお許し頂きたい。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
オフィスランディックは中央区を中心とした住居・事務所・店舗の賃貸仲介をはじめ、管理、売買、リノベーションなど幅広く不動産サービスを提供しております。
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