<2021.10.14記>
私が興味本位で出席した管理組合の定期総会での一幕である。(「興味本位」と言葉は悪いが当社は「棚卸資産(販売用不動産)」の総会議案に関しては原則「中立」の姿勢ということ。)議案が「管理費・修繕積立金の値上げ」の審議に入るや否や、その若き投資家と思しき青年は真っ先に挙手して朗々と反対意見を述べた。「共益費の値上げをする前に無駄な経費を削減すべきと思う。フロントスタッフ(コンシェルジュ)の勤務日数(及び時間)に削減の余地があるし、夜間警備員常駐の手厚い管理体制が本当に必要か疑問に感じている。」彼は不動産投資の観点から理路整然と共益費値上げの見直しを求めたのである。私にはその意見が正論であることが理解できた。当該マンションは、総戸数の過半が40㎡未満のコンパクトタイプであり、6割超が投資用(賃貸用)になっている実情を仕事柄知り得ていたからである。その後も同様の意見が2、3人続いた。
暫くして一人の老人が議長から指名されて徐(おもむろ)に立ち上がり、出席者全員を見渡してから幼児を諭すように優しく語りかけた。「私は、ホテルのようなこの管理体制が気に入ったからこそ購入した。皆さん、『家』は住まうものです。快適な住環境を維持することが重要だと思いませんか?『損得』で判断するものですか?」翁の放つ威厳を感じさせるオーラのせいもあろう、問い掛けの口調ながら説得力があった。「うむ、仰る通りである。」私も同様の考え方をコラム№9、№17、№60で述べている。ところが、会場に暫しの静寂が生まれるも同調者は現れなかった。翁の住戸は総戸数の1割にも満たない80㎡超の大型ユニット(高額住戸)であり、自己居住用タイプに住まう少数派の意見ということもあって投資家の視点と大きく異なるからだ。また、「理事会」寄りの発言ではあっても「共益費の値上げ」を喜ぶ人はいない。皆、「(不満だが)仕方がない」と思っているだけなのである。
投資用のマンションでは、管理運営に対する組合員の関心は希薄であって総会出席者は少ない。当社同様に議長一任が多い。「物申す」為に出席した組合員も総議決権数で見れば少数派であり、また、理事会の面々は謂わば「素人」同然に見受けられ、建物管理会社主導で作成された議案は次々と可決していった。
さて、「費用対効果」や「実質利回り」を重んじる投資家と損得勘定抜きで「ホスピタリティ」や「セキュリティ」を重んじる自己居住者の対立する意見にも拘らず、私が双方に共感を覚える矛盾は何故生じるのか、それは「どちらの考え方も間違っていない」からである。間違いは、区分所有マンションの管理体制を「投資用」と「居住用」に仕分けして来なかった不動産業界の歴史の方にある。
高度成長期を迎えて日本が豊かになり、「家」が投資の対象となり始めた時点で「仕分け」をすべきだった。購入目的も価値観も分裂するコミュニティは纏まりにくい。特に投資(≒賃貸)用のマンション所有者は、海外勢も含め遠隔地に住まう方も多い。かつ、その様な富裕層は往々にして複数戸所有しているから管理運営に深く関与することは不可能に近くなっている。居住用マンションと違ってボランティア精神では理事会が維持できない。名ばかりの役員ではなく、有償でも良いから管理運営のプロに任せたいはずである。
好ましい「仕分け」は、商品企画段階からだ。判断基準として平均床面積が40㎡未満なら「投資用」に仕分けた方が良い。仮に当初は自己居住用に供されたとしてもライフステージの変化(転勤・結婚・拡張移転等)でいずれ貸出される確率が高いからである。既存住宅も自己居住比率が全体戸数の40%を切ったのなら「投資用」マンションへの管理体制変更を検討した方が良いと思う。
「投資用」と位置付けられた区分所有マンションは、管理規約で管理運営を外部委託できる条項を追加すべきである。その結果、管理受託者が必要になるから不動産業界に新たな分野が生まれる。そのまとめ役となる半官半民の団体も必要になるだろう。尚、区分所有をしない個人であってもマンション管理士等の有資格者なら、然るべき報酬を得て理事長職を請け負っても良いと思う。但し、外部に委託することでその理事会が不正の温床になってはならない。よって、その任期は長くて2年(できれば1年)、適切な監査システムを構築して金銭管理も厳しくしなければならない。
今からでも遅くはない。区分所有マンションの「仕分け」をすべきである。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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