<2021.11.1.記>
本年のノーベル物理学賞の受賞者は、世に先駆けて「二酸化炭素の増加は地球温暖化に繋がる」と情報発信した地球科学分野の第一人者、真鍋淑郎先生(御年90歳)その人である。日本人(現在は米国籍)としては、28人目のノーベル賞受賞者(物理学賞受賞者としては12人目)となる。1997年(平成9年)の地球温暖化防止の国際会議(国連気候変動枠組条約第3回締約国会議=COP3、於:京都)にて採択され、日本も2008年より2012年の期間において1990年比で6%の温室効果ガス(二酸化炭素他5種)の排出量削減の義務を負うことになった。その「京都議定書」が採択できたのも真鍋先生のような賢人らの研究の成果があってこそのものと思う。仮にその義務が経済成長の足枷になったとしても地球が壊れてしまえば元も子もないのだから日本の政治的判断は間違ってはいないと思う。2015年9月の国連サミット(193か国)で採択されたSDGs(=持続可能な開発目標、Sustainable Development Goalsの略)に掲げられた17の目標の中にも環境保全・エネルギー問題が力強く謳われている。
戸建業界も政府主導にて真剣にZEH(ゼッチ)に取り組んでいる。ZEH(ゼッチ)とは、Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略(「ゼッチ住宅」との呼称は「ハウス」と「住宅」が重複するから本来誤り)であり、「 断熱性能 」「 省エネ性能 」「 創エネ(太陽光発電等)」の3項目の基準をクリアすることによって年間エネルギー消費量(空調・給湯・照明・換気等)の収支を概ねゼロ以下にすることを目標とする住宅のことである。現金収支0円が目標と誤認している人が多いが「0以下」の目標値は「エネルギー消費量」である。補助金を得たとしても初期費用の重さは拭えず、その後の維持管理を考えると損得勘定よりも「快適に住まうこと」と「地球環境保全」をテーマにしたが良いと思う。「まずは、できる人(富裕層)から範を示す」と解釈した方が健全である。その点は先進国に数値目標が課された「京都議定書」の精神に相通ずるものがあるのではないだろうか。
その他、政府は2030年までにHEMS (home energy management system、「ヘムス」)という管理システムを普及させたいと考えているようだ。「創エネ」「蓄エネ」「省エネ」の3項目を管理・コントロールするのがHEMSであり、エネルギーを緻密に管理して最適化を図ることにより消費の無駄を削減、そうすることで光熱費が削減でき、延いてはCO2排出が削減される、という所謂「スマートハウス」という考え方だ。省エネ住宅という括りでは、ZEHと共通点が多いが、「スマート」の持つ語感の通り、エネルギーを「賢く」消費することに主眼を置いている。電気自動車の電力までも有効活用しようとする試みが何とも賢い。似て非なる呼称は「スマートホーム」だが、これはIoT(Internet of Things)で「暮らし易さを追求した住宅」のことであるからこの度のテーマとは異なる。
ZEHの考え方をビル・マンションに限らず公共施設・商業施設に至る一定規模の建物全てに取り入れたいものだ。言うなればZEB(Net Zero Energy Building)とでも言うべきだろうか。ビルの資材や工法に改良の余地が大きいと思う。また、建物そのものに太陽光発電所の機能を持たせられないものか。ゲリラ豪雨を中水(飲用には適さずとも工業用水等になり得る水、「上水」は飲用水、「下水」は汚水・雑排水)として何らかの有効活用ができるインフラ整備も検討したい。従来の形骸化した建築設計制度にも見直しが必要になっている。大規模開発で義務付けられた屋上緑化の多くが失敗しているように感じるのだ。(誰しも商業施設やマンションの屋上で枯れ果てた花壇を見たことがあると思う。)建築確認・開発許可が得られれば良いというものではなく、持続可能な緑化計画が求められる。植物そのものの品種改良や給水システムの維持管理に限界があるのなら光触媒の人工観葉植物を更に進化させてCO2の分解機能付の新商品を発明できないものか。建材そのものにその機能を持たせるのも一案である。どれもが建築費のコストアップに繋がると思われるので補助金や税控除で施主をバックアップする政策も必要になるだろう。
温暖化の影響から都心部で鼠が増えている話はコラム№102で述べた通りである。海水温の上昇で本来暖海に生息するヒョウモンダコ(フグと同じ毒「テトロドトキシン」を持つ)がその生息域を北上(一説に日本海側で福井辺り、太平洋側で千葉辺りまで)させている。日本国内には生息するはずのない有毒のセアカゴケグモ(背赤後家蜘蛛)やヒアリ(火蟻)が海外からの船荷とともに渡来して密かに都会の片隅で越冬しねないという。
私は本年10月の大半を半袖で過ごした。私のような凡人でさえ異常気象を文字通り肌で感じる今日この頃であるが、50年以上も前に地球温暖化に気付いた科学者がいたとは驚きである。正確には、「元」日本の科学者である。優秀な人材が海外に流出している現実を目の当たりにし、素直に祝福すべきところ一抹の寂しさを感じざるを得ない。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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