<2021.11.13記>
ある家賃保証会社(以下「保証会社」)の督促部隊は警備員と見紛う制服で昼夜問わず都心部を駆け回っている。その上着、まさか防弾チョッキではないと思うのだが、担当者が危険(滞納者の「逆ギレ」、「八つ当たり」)に晒されている場面を連想してしまう。また、家賃滞納に対する毅然たる保証会社の姿勢を感じて頭の下がる思いに駆られることもある。本来は家賃滞納の督促業務は賃貸管理業務の一部であるのだが、最近は保証会社の加入を募集条件とする家主も多く、我々の業界にも「分業」が進みつつある。単に失念した程度の家賃の未払いは、他愛もない事務連絡で済むが、本格的な家賃滞納は「言う」方も「言われる」方も精神的にきつい。できることなら、家主と入居者の狭間の立場にある我々よりも家賃を立替え払いした保証会社から「当事者」としてビジネスライクに督促して貰った方が良いと思っている。当社も社有物件があるので貸主の立場で督促することもあるが、第三者から督促された方が実情(滞納の原因、悩み事)を話し易いだろうと思うことが度々ある。よって、保証会社との「分業」はとても有り難い。
令和2年4月1日施行の改正民法で連帯保証人の責任の範囲が定められ、保証すべき限度額についても事前に定めることが義務付けられた。その様な事情もあって建物賃貸借契約において保証会社の利用が増えているのだ。従来の連帯保証人は債務者本人と同等の責任を負うことを契約によって約束した第三者であるから、親・兄弟と謂えども(連帯保証人になって貰うことを)気兼ねせざるを得なかった。連帯保証人に代わる家賃保証システム(家賃保証契約)の利用、これも日本古来の「家制度」が弱体化していることの表れであり、どんなに親しい人にも、否、親しいからこそ線を引かねばならぬ「世の流れ」なのだろう。
さて、家賃を滞納する人に是非理解して頂きたいのは、家主も左団扇(≒無借金)の人ばかりでなく、その不動産取得の為に借入れがあることも多く、「家主も同じく(金融機関に対して)滞納が許されない立場にある」ということである。その金融機関さえも監督官庁に不良債権の処理を厳しく指導されているのである。不動産業界に限らず世間は何らかの関係で繋がっており、守られるべき「約束」の連鎖が断ち切られると途端に至る所で軋轢が生ずる。その点、№89「整合性」で私の主張をお汲み取り頂きたい。また、家主=お金持ち、との固定観念を持たれ易いが、是非、本コラム№23「いざ、鎌倉」や№105「資産家の餓死」も遡ってお読み頂き、家主側にも知られざる受難や悲劇があることを分かって欲しい。
尚、家賃を滞納されても督促しない家主が「優しい人」とは限らないことも申し上げておく。滞納額が積み上がると支払い不能額になってしまうからだ。世の中には金銭管理が上手くできない人もいるし、突然の失業といった不測の事態もある。今以て尚「コロナ禍」に振り回された多くの事業者も家賃の支払いに苦しんでいる。しかしながら、家主が滞納を放任すると滞納者はある種の「開き直り」にも似た心理状態に陥って督促を無視するようになってしまう。その結果として滞納が長期化するならば、家主が法的手段に打って出ることもあり、入居者が強制退去(裁判で建物明け渡し請求が認められる判決が下されると強制執行可能)の憂き目に遭うことになりかねない。突然に「住所」を失えば、仕事にも支障が出るだろう。だから、事態が深刻化する前にきちんと督促するのは家主の務めでもある。願わくは、賃貸管理会社も家賃保証会社もその代弁者に過ぎないものとお考え頂きたい。
話を「家賃保証会社」に戻すが、実は当社も創業間もない頃に家賃保証会社の設立を考えたことがある。賃貸仲介の生産性の低さを派生業務で少しでも補填できないものかその分野に着目したのである。だが、「強制執行」のドタバタ劇に巻き込まれて考え直した。いざ法廷闘争にまで発展すると精神的にも、時間的にも、金銭的にも負担が大き過ぎるのである。同業他社よりも一人で多岐に渡る業務を請け負う当社の営業スタイルにおいては、その(保証会社)窓口業務までも賃貸仲介の営業と兼務させてはならないことに改めて気付かされたのである。
私は、己に一騎当千の気概を持つことを心掛けつつ、「多能工」的な八面六臂の活躍を社員に期待はするものの、断じてミッションインポシブル(Mission: Impossible=実行不可能な任務)であってはいけないと常々思っている。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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