<2022.1.6記>
不動産には沢山の「価格」が存在する。公的な価格と言えば、「路線価」「公示価格」「基準地価」「固定資産税評価額」が挙げられるが、それらの特色を要領良く理解するには、①調査主体、②調査時点、③公表時期、④主たる目的・用途、の4項目に絞って覚えておくと良いと思う。探究心旺盛な方は、路線価の(角地・奥行等)の補正率に至るまで気になってしまうと思うが、実務では大まかな「考え方」を体系的に把握しておくことをお勧めする。因みに我々(宅地建物取引業者)が重んじるのは「実勢価格(=実際の取引価格、時価)」である。よって、ほぼ同質の「公示価格」と「基準地価」を一括りで考えれば、「一物四価」と考えるのが一般的だろう。
路線価の調査主体は「国税庁」であり、その年の1月1日を調査時点として7月~8月頃発表される。成約事例などを参考に公示地価の8割が目安である。これが相続税や贈与税の算定基準になる。公的評価の中で調査地点が最も多い。(調査対象:約336,000地点)
公示価格の調査主体は「国土交通省」であり、調査対象は基本的に都市計画区域内、路線価同様調査時点はその年の1月1日である。公表時期は3月で金融機関の担保評価に活用されることも多い。路線価が公示価格の8割を目安にしているということは、裏返せば路線価に逆数(1.25)を掛けたものがおおよその公示価格ということだ。(調査対象:標準地約26,000地点、調査依頼される不動産鑑定士は2名以上)
基準地価の調査主体は「都道府県」であり、都道府県知事が9月に公表している。尚、調査時点はその年の7月1日、公示価格と違って都市計画区域外も調査対象に含まれるが、公示価格と同じく正常な地価形成を目的としており調査方法に大きな違いはない。よって、公示価格の補完的な指標とも考えられる。(調査対象:基準地約21,000地点、調査依頼される不動産鑑定士は1名以上)
固定資産税評価額の調査主体は各市町村(東京23区は各区)であり、「固定資産評価基準」に基づいて各自治体の担当者が個々に確認して決定(土地なら時価の約70%程度と言われる。)、3年に1度、前年1月1日を基準にして公表される。この評価額を元に毎年1月1日時点の登記名義人に対して固定資産税・都市計画税が課される。(納税通知は毎年4~6月頃。自治体によって多少異なる)また、不動産取引の際に発生する不動産取得税・登録免許税もこの固定資産税評価額より算出される。
さて、肝心の「実勢価格(時価)」についてであるが、成約に至る前段階、つまり査定段階では3つの価格に仕分けしたい。我流の分類に過ぎないが、一つ目は、「上限価格」である。個人的には「チャレンジ価格」とも言っている。高値であるかもしれないが「市場の声」を聞いてみたい期待値だ。二つ目が「査定価格」、これが我々が妥当と信ずる成約見込価格(落着予想価格・相場・時価)である。三つ目が「下限価格」、これは間違いなく売れるであろう価格、だから買替特約においては理想的な(一定期間内にこの下限価格をもってしても売れなかったら白紙解約にできる)停止条件価格となるし、時として我々の買取価格と近似値になる。尚、どれを売出価格とするかは人それぞれ事情が異なる。必ずしも売れなくて良いと考えるならば「上限価格」寄りになるし、早期売却を優先するならば「下限価格」寄りにならざるを得ない。それら不動産価格査定の基本的な考え方は、「取引事例比較法」「収益還元法」「原価法」が主だったところであることはコラム№32「相場」で述べている。
不動産価格の乱高下は断じて望むところではないが、どんなに公的指標をもって価格を誘導しようとしても、国土利用計画法を用いて監視区域・規制区域にでも指定しない限り、資本主義経済の下では需要と供給のバランスで価格が形成される。その点は経済学者アダム・スミスの著書「国富論」で言うところの「神の見えざる手」の理論が的を射ている。
要するに、不動産価格は「一物四価」を基本としつつも「一物多価」が実態ではないか、というのが私なりの結論である。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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