<2022.1.16記>
私がある自主管理のマンション(ハイツN)の管理組合で理事長をしており、その管理運営で日々悪戦苦闘していることはコラム№76(止水)で述べているが、当該マンションが築40年を迎えるに当たり、理事長としてある決断をした。次の総会で10年後に建替協議をすることを決めておくことを決意したのである。異例の試みではあるが建替協議そのものをするのではなく、建替協議をする「時期」を決めておく審議をするものである。築50年目位でその後の基本方針を決めておかねば、修繕積立金の使い途も見直しも定まらないからだ。
とは言っても、2002年(平成14年)施行のマンション建替え円滑化法(正式名称:マンションの建替え等の円滑化に関する法律)の適用による容積率の緩和も期待できず、狭小の規模にして殆どが投資用(賃貸)になっている関係上、割高な拠出金を要し、経済的合理性を見出すことのできない建替計画になるから否決される可能性が高い。その点は承知の上の試みではあるのだが、現在の所有者にも、将来所有者になる人にも老朽化に対する危機感と覚悟を持って貰いたいのである。建替えないならば、修繕積立金の値上げか一時金徴収によって建物の延命措置を講じなければならない。延命措置も次世代に問題を先送りするに過ぎないから築60年を超えたら敷地売却(土地の時価から解体費等売却経費の総額差し引いた後、持分割合で分配)が現実的なところではあるのだが・・・。
当該建物が旧耐震基準とは言え、適正な維持管理を徹底すれば、「まだまだ使用収益可能」と考えている(考えたい)が、堅固な建物(法定耐用年数47年)でも「60年一区切り」と考えるのが妥当なところだ。人間にしても還暦(60歳)ともなれば何らかの健康不安を抱えるものだ。人も建物も、いつの日か「限界」を迎えることは間違いない。建物を延命させようにも建物給排水・汚水管の更新工事には莫大な費用が掛かるうえ、建物構造上の問題で住みながらの工事は不可能に近く、入居者の全面的な協力(仮住まい等)が必要になるから実現が極めて難しい。それらの厳しい現実を理解して欲しいのである。
まずは、昨年理事会の決議により老朽化に関する意識調査を実施した。管理組合員の意向を反映させた総会議案としなければ意味が無いからだ。私は不動産業を生業としているから全体像が見えているが、おそらく管理組合員は「今其処にある危機」を認識していないと思う。アンケート形式ながら啓蒙活動の一環であり、できる限り円満な合意形成を為したいとの思いからの第一歩である。また、暗黙裏に将来立退き問題(多額の立退き費用負担)に発展しないよう然るべき時期に投資家に定期借家契約での入居者募集への切り替えを推奨するものでもある。
この試みによって売買予定の際に管理組合に発行を求められる「重要事項に係る調査報告書(管理運営状況の実態報告書)」に建替え協議を行なう時期が明記されれば、優良な金融機関にはありのまま担保評価して貰う為の情報開示になるし、悪質な金融機関の過剰融資を阻止できる。不動産投資が自己責任とはいえ、時価を大幅に超過する抵当権の抹消は困難になる。そうなれば、高値掴みの被害者は建替え協議で闇雲に全ての案に反対することになるだろう。老朽化に対する何らかの打開策を見出すことができなければ、他の管理組合員までもが底なし沼に引きずり込まれることになりかねない。
小さなコミュニティは維持管理に要する費用面でスケールメリットが得にくい「弱み」であることは否めないが、一致団結しやすい「強み」であるとも考えている。理事長の担い手のいないハイツN管理組合は、当面私個人のスキルと当社スタッフのボランティア精神で牽引するしかない。「そんなに負担だと思うなら自主管理をやめて建物管理業務を外部委託したら?」と意見する人もいるだろうが、外部委託する為に管理費を値上げすれば、実質利回りが著しく低下して資産価値の毀損に繋がる。居住用大規模マンションの一般論は狭小規模・投資目的大半のハイツNに当て嵌まらないのである。綺麗事は言うまい。当社の悪戦苦闘も必ずしも他が為のみにあらず、である。
だが、私にもいずれ限界が来る。私の責務は早めに老朽化の警笛を鳴らしつつ、優良資産として次世代に引き継ぐ(大規模修繕工事の実施)か、または負の遺産として遺さぬこと(建替え・敷地売却)だと考えている。勿論、信頼できる管理者(新理事長)への円滑な引き継ぎが望ましい。画期的な代替案が提唱されるなら喜んで耳順うつもりである。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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