<2022.3.1記>
とかく「ブラック」という単語のイメージは悪い。悪烈な労働環境にある会社は「ブラック企業」と呼ばれるし、行過ぎた校則は「ブラック校則」、漢字に置き換えても「暗黒」とか「腹黒い」とか。クレジットカードの最上級を表す「ブラックカード」の呼称がせめてもの救いと言ったところだろうか。
本日のテーマは不動産業界や金融機関で言うところの「ブラックリスト」について。住宅や投資物件の購入資金の融資審査に際し、決定的な否決の原因となる信用情報機関に登録されてしまった事故情報(長期延滞や破産等の履歴)であることは良く知られている。しかしながら、その登録・管理が業界団体を母体とする「信用情報機関」が行なっていることは然程知られていない。銀行・信用金庫・信用組合・農協系は「一般社団法人全国銀行個人情報センター(KSC)」、信販会社系は「(株)シー・アイ・シー(CIC)」、消費者金融系は「(株)日本信用情報機構(JICC)」である。これら信用情報機関に長期延滞の事故情報が登録されてしまったのなら、延滞解消から5年間はその情報が削除されないことを覚悟しなければならない。その間、新たな融資を取り付けることは容易ではない。
以下、私が同業他社のベテラン営業マンから聞き齧った「ブラックリスト」に纏わる話を事件簿として紹介する。本コラムをお読み頂いたのも小生との多生の縁だと思う。いつの日か、見知らぬ誰かの「ブラックリスト」入りを抑止する「他山の石」となれば幸いである。
事件簿1.マンションの購入申込者は50代の女性Aさん、職業は公務員、管理職で高年収であった。希望する借入額は物件価格比60%(=頭金40%)、返済比率20%以内(=査定金利で算出した年間返済額÷年収)で健全そのものだった。ところが、事前審査を申し込んだところ、まさかの即否決。審査窓口にその理由を尋ねるも規則上理由は開示されない。本人にも全く心当たりがない。やむなく信用情報機関に「本人開示制度(本人なら自分の情報を開示請求できる。)」を利用して原因を突き止めたところ、未成年の娘さんがAさんのクレジットカードを勝手に持ち出し、(本人になりすまして)指輪を購入、親に悪事を相談できぬままその支払いが滞っていた。
事件簿2.自営業のBさん、業績は好調で決算書の内容も良く、融資の申込先も公的融資(当時は「住宅金融公庫)だから、借入額の減額は多少覚悟していたものの、完全に否決されることは想定していなかった。仲介人のアドバイスに従って信用情報機関に情報開示を請求して事態が明らかとなる。Bさんの事務所にある複合機のリース契約が係争中の扱いになっていた。Bさんとリース会社に見解の相違があってBさんがリース会社の支払いを拒むうち、「ブラックリスト」に載ってしまっていたのである。Bさんにも言い分があるようだったが、リース会社から見れば「債務不履行」に他ならないのである。個人事業主の場合、常に経営責任が付き纏うことを意識しなければならない。
事件簿3.一流商社に勤める若きエリートサラリーマンCさん、大きな挫折を知らぬCさんにとって住宅融資の否決は衝撃的であった。「もしかして・・・。」本人の説明によると、多忙のあまり携帯電話の利用料金の引落口座に当面の必要額を入金し忘れたまま長期海外出張に出てしまったそうだ。帰国後、自宅の郵便受けに届いた督促状に気付いてすぐに滞納を解消したから「事なきを得たつもり」だった。自分の「うっかり」は認めつつも、少額ということもあって「些細なこと」と高を括っていたのである。詰まらぬことで自宅購入の好機を見送ることになってしまった。銀行の立場から冷徹に人物評価するならば、忙しければ「うっかり」ミスする人であり、少額の滞納なら「些細なこと」で片づけてしまう「信用できない人」ということになる。
事件簿4.自営業のご主人と上場会社に勤める奥様のDご夫妻。(所得合算にて)3カ月間で計8件の融資審査をしたそうだ。当初は大手銀行で難なく融資承認を得ていたが、ある時からパタリと融資承認が得られなくってしまったそうだ。今以て謎の事件だが、「家」の購入にも拘らず審査対象物件に何ら脈絡が無いこと、及び審査件数の過多が気になるところだ。購入しようとする物件が戸建だったり、マンションだったり、時に新築、時に中古、エリアも多摩地区から千葉方面に至るまで広範囲だった。また、どれも成約に至らず結局審査を取り下げていた。審査側が本気度に疑問を感じても致し方がない経緯だ。そうこうする内に大手銀行の融資否決の履歴が引き金となって他の銀行にも悪影響を及ぼしたものと推察する。いずれにせよ、住宅融資審査は移り気に任せて闇雲にするものではない。
住宅融資審査の否決にどうしても納得いかない時、又は、銀行の営業担当者が言葉を濁してネガティヴ情報の存在を匂わす時、「本人開示制度」を用いてその「ブラックBOX」をこじ開けてみることが必要になることもある。其処には本人も驚愕の真相が隠されているかもしれない。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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