<2022.6.1記>
不動産価格に関して売買と賃貸の変動(騰落)率は大きく異なる。その点、熟練の不動産投資家の皆様におかれては既にお気付きのことと思う。流動性が高く秒単位で瞬時に変動する株価と違って長期をもって分析すべき不動産相場であるが、売買価格(以下「価格」)の変動は大きく賃料の変動は小さい傾向が明らかである。
仮想の不動産(設定:東京都心部/昭和50年代築/間取り:1R)に数値を当て嵌めて説明しよう。2022年(令和4年)6月現在で価格1,500万円、賃料8万円が相場の投資用マンションがあったとする。1988年(昭和63年)のバブル絶頂期においては価格3,000万円超(必要利回り3%程度)であったと思う。ところが、「リーマンショック」と呼ばれた不動産市況の低迷期2008年(平成20年)なら、価格は800万円以下(必要利回り8%以上)まで下落したものと考えられる。つまり、2022年価格対比は最高値が+100%超、最安値は▲46.6%以上、その値幅は2,200万円にもなる。
では、賃料相場はどうか。2022年に8万円が妥当賃料のそのマンションは、1988年バブル絶頂期においてさえ上限9万円程度、2008年のリーマンショック時においても下限7.5万円程度であり、それを下回るようなら空室期間が多少長引いたとしても投資家たる貸主は容易に譲歩しない。収益物件の賃料値下げは不動産価格の下落に直結するものであるし、入居後の賃料値上げ交渉の難しさを良く知っているからだ。また、一棟を所有する内の一室ならば既存の入居者に不公平感を持たれるのも怖い。(集団的値下げ論争に飛び火しかねない。)その結果、2022年対比の最高値でも+12.5%、最安値でも▲6.25%、値幅は1.5万円に過ぎないということになる。
この価格変動の違いを良く理解した上で、コラム№98(苦言)で言うところの「腹6分目」で己を律し、コラム№123(頭と尻尾)記載の格言「頭と尻尾はくれてやる!」の気概を持って不動産投資に臨むならばリスクは少ない。(但し、予測不能の天災地変や地政学的リスクを除く。)価格が低迷しても賃料が然程変わらないとすれば、募集条件を微調整(例:フリーレント1ヶ月付与)して稼働率(入居率)を改善すれば良いのであってコラム№8(登山)で言うところの「ビバーク(緊急避難)」になる。そうすればコラム№105(資産家の餓死)のような事件事故にはならない。市況低迷期を乗り切れば、仮にキャピタルゲイン(Capital Gain=一時的譲渡益)が望めないとしても、ふと気付けばインカムゲイン(Income Gain=継続的収益)で元は取れているはずだ。勿論、経済成長を伴う正常なインフレ下においてはその両方が得られる可能性もある。
「その様な保守的な考え方(コラム№98参照)では投資の機会を失う」と反論されるかもしれない。だが、私は積極果敢なレバレッジ経営を否定しているのではなく、キャッシュフロー経営の重要性を申し上げているだけである。高度な危機管理能力を有する優れた投資家がハイリスクを覚悟して挑む積極投資に問題は無い。唯々、昭和の高度経済成長期のような右肩上がり一辺倒の価格上昇を前提にした不動産投資は成り立たないであろうことを危惧しての所見である。
いずれにせよ価格の騰落は一喜一憂すべきものではない。金融資産と異なり売却に時間も掛かるし、売却経費も大きい。短期譲渡の税負担は重く事業用不動産なら居住用財産の特別控除(譲渡所得が3,000万円以内であれば課税されない特例)は適用されない。また、人生100年時代が到来してさえも最安値・最高値に拘って10年単位で様子見することは難しい。概ね30年を振り返って「あの時が底値だったのか!」とか「あの好景気はバブルでしかなかった・・・。」とか気付く位のものである。
不動産投資の対象を収益物件としたならば、その投資活動は「事業」であると考えた方が良いと思う。サラリーマンが収益物件を初めて購入する場面を言い換えるとしたら、「給与所得者が『副業』として『賃貸事業』を『創業』する」ということになる。事業者であるのだから其処に健全な経営感覚が求められるのは当然のことなのである。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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