<2022.7.1記>
「家」の好みを問うならば、大まかには「マンション志向」と「戸建志向」の二派に分かれるものだ。(選択肢としては中間色の「連棟式建物=コーポラティブハウス」もある。)それは、ペットの好みで言うところの犬派と猫派、食べ物(主食)に喩えるなら米食とパン食の好みを問うようなものであって、無論どちらが正しいと言うわけではない。コラム№9(家)で書いた通り、住まいは「十人十色」で良いとするのが私の持論であり、仕事柄その人の志向に寄り添うことを心掛けている。今回のコラムでは、マンションと戸建、それぞれの特徴の比較表を用いて「思うところ」を述べたかったのだが、紙面の都合もあってマンション(区分所有建物)にテーマを絞る。(「戸建志向」については折を見て書くものとする。)
当社の主要営業エリア(東京都中央区)ではマンション派が圧倒的に多い。コラム№93(戸建)で書いた通り、好みの問題というよりも戸建の供給そのものが無い(できない)ことの影響が大きい。高額な商業地が大半の当エリアにおいて、需要に見合う価格帯の居住空間を一定量供給するには、都心部ならではの高い容積率を効率良く消化できる高層の共同住宅に商品としての優位性がある。(東京都中央区で道路付の良い整形の商業地なら敷地10坪の狭小住宅が億超えの価格帯になってしまう。)
戸建派がマンション住まいを敬遠する理由の一つとして「自分の土地が無いから、」と回答することがあるが、それは誤認と言わざるを得ない。所有権(物権)にしろ、借地権(債権)にしろ、敷地権という権利形態で共有持分ながらも各々が土地を有していると考えるのが正しい。新法の定期借地権付マンションを除けば、戸建と同じく建替えも理論上可能だ。しかしながら、戸建と異なるのは建替協議を整えることが難しく、仮に建替協議が整ったとしても資金手当に関して管理組合全員の足並みを揃えるのは容易なことではない。よって、「マンションの建替え等の円滑化に関する法律(建替え円滑化法)」の平成26年6月改正により創設された「敷地売却制度」の有効活用が今後ますます注目されるようになると思う。(耐震性が不足していると認定されたマンションについては、「5分の4」の合意で敷地売却が可能)
また、敷地を有していると言っても、その共有持分で面積換算してみると思いの外に土地が少ないのも事実。だが、土地の持分面積が少ないのは容積率を効率良く消化した建築計画の成果であって、その結果として固定資産税・都市計画税が戸建に比して割安で済むことになる。よって、専有面積さえ満足できるものであれば、土地持分が少ない方が却って税務上のメリットが大きい。その点は相続対策にマンション投資が適する理由の一つにもなっている。特例的に相続評価減となる小規模宅地は200㎡(約60.5坪)迄であるから、土地共有持分の面積換算が6坪のマンションなら、10戸所有したとしても(賃貸すれば、)不動産貸付用地として(土地部分の)相続評価の減額割合が50%になる。また、10戸の賃貸物件を保有するということは、個人でも事業規模(所謂「5棟10室」)に該当することになるから、青色申告することにより不動産所得から65万円を控除できる。その他にも家族に賃貸管理を任せて給料を支払うことができたり、未回収の家賃の損失計上がし易かったり、災害などによる被害額を3年間にわたって損失計上できる等の節税効果もある。(但し、新たに課税される個人事業税や帳簿作成義務などを十分に理解した上で事業化に挑む必要があるので税理士への事前相談をお勧めする。)
勿論、マンションには色々な制約があるから100%満足できないこともあると思う。例えば、戸建ならペットの飼育に制限はないが、マンションの場合は管理規約・使用細則・飼育細則でペットの飼育頭数や大きさ(体長・体高・体重)までもが厳しく規定されていたり、飼育自体が禁じられていたりする。戸建なら庭の一部を整地して2台分の駐車場に変更もできるが、区分所有者が独断で共用部の区画形質の変更ができるわけもなく、駐車場が余らない限りにおいて恣意的に2台目の駐車区画の確保を主張することは難しい。尚、戸建派は共益費(管理費・修繕積立金)や駐車場使用料の徴収に嫌悪感を持っていることが多い。その点、マンション派が共益費や使用料を健全な管理運営に必要な経費、積立金と割り切っているのと対照的な考え方だ。
私は、「志向」がどちらに変化しても良いと思っている。戸建志向の人でも老いと共に階段昇降や庭の手入れが耐え難い負担になってしまうかもしれないし、マンション志向の人でも家族が増えて郊外の庭付一戸建に住みたいと思うようになるかもしれない。ライフステージに合わせた「志向」の変化(転向)は自然なことでもある。
当社のエリア特性もあって、全般的にマンション派を擁護するかの内容になってしまったが、住まい選びについては、心底自由で良いと思っている。ただ、東京都中央区において(全長25m)プール付のマンションは実在するが、プール付一戸建の存在は(今のところ)聞いたことがない。それが日本の、東京の、都心部の、歴然たる住宅事情の現実というものである。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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