思うところ127.「定礎(ていそ)」 | 東京駅・茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ127.「定礎(ていそ)」




    <2022.7.14記>
    私が特定のマンションの売出事例や成約事例を抽出しようとレインズ(REINS=宅地建物取引業者の指定流通機構)」を利用する時、手っ取り早い検索手法として住所(枝番の選択肢は無し)+完成年月を入力して対象物件に絞り込む。その完成年月だが、いつの間にか前後1ヶ月の幅を持たせて検索するのが癖となってしまった。同じマンションであるにも拘わらず、完成年月が1ヶ月程度ずれて登録されていることが間々あるからだ。それでも住所+マンション名で検索するよりは効率的だと思っている。なぜなら、各社(又は担当者毎)のマンション名記載(入力)方法に多少癖があり、英語表記だったり、カタカナ表記だったりするばかりか、大文字・小文字、全角・半角等、独自の判断で登録されているのが実情であり、それによって異なる物件と認識されてしまい、私が必要とするデータから漏れてしまうからである。賛否両論あるキラキラネームの問題と同じく、商品企画者の過ぎたる思いがマンション名を複雑なものにしているように思う。

    あるべき「完成年月」の考え方を確認しておこう。マンションの工事が完了すると、建築基準法に基づいて建築主事(又は指定確認審査機関)によって完了検査が行なわれる。その検査日が建物の新築年月日として登記簿に記載される。だから法務局で建物の不動産登記事項証明書を取得すれば建物完成時期が分かる。又は、検査済証にて検査日を確認するのも可。検査済証は再発行が認められないから、見当たらない場合は物件を管轄する役所で台帳記載事項を取得して確認するのが良い。これが本来の完成年月日(竣工日)と考えるべきなのだが、どうやら分譲時のパンフレット記載の完成予定時期や入力担当者のケアレスミスが一人歩きしてしまうようだ。

    ここまでは売買物件(区分所有物件)に関するお話。ところが昭和時代築の小規模な賃貸物件、特に個人オーナーの建物ともなると各社の募集図面記載の完成年月のばらつきがより目立つ。仲介会社の職務怠慢(他社の募集図面丸写し)もあると思うが工事完了検査を受けていないこと(オーナー側の問題)が原因の一つになっている。(戦前の建物などの「築年不詳」はやむを得ない。)かつては、完了検査の義務こそあれ、今ほど厳しく無かった。施主が完了検査の費用を惜しんだり、少し後ろめたい変更工事があったりして完了検査を受けずに使用収益が開始されていることが珍しくなかったのだ。(行政や民間の検査機関が耐震偽装を見抜けなかった2005年の「姉歯事件」を契機として厳しくなった。)因みに分譲マンションなら完了検査は必ず受ける。そうでないと商品にならない。その不作為自体が法令違反であるのだが、建物が法令に適合している確証が無いことで違反建築の可能性を排除できず、買手がついても住宅融資が受けられないことになるからである。(分譲会社は免許事業者として存続できなくもなる。)

    不動産会社の営業マンが完成年月と勘違い(思い込み)し易いのがビルエントランス付近に埋め込まれた「定礎(ていそ)」なる記念碑(プレート)に刻まれた年月である。元々は流行(はやり)もののように広まった慣習だったこともあって「定礎」の定義が今や曖昧なものになりつつある。「定礎」には明確な設置基準も設置義務も無い。法的な設置基準が無いのだから刻まれた「年月」が正式な完成年月(完了検査完了月)とは限らないのである。ところが、建築の総仕上げとして竣工年月などが記載された定礎石が設置されるようになるにつれ、何となく竣工記念碑のような位置付けになってしまった。

    因みに礎(いしずえ)とは建築物の柱の下に据え置く基準となる石(柱石、根石)のことだ。定礎とはそれを定めること。現代の建築技術では礎石など用いないのだが、本来は建築を始める時にするものであるから定礎が建物完成日になるはずがない。当初の定礎式は日本古来の地鎮祭の性格を帯びており、西洋風の建築(石造り・煉瓦造り)がもて囃された明治時代にヨーロッパからもたらされた慣習(儀式)である。その起源は古く、古代ギリシャ・古代ローマにあると言われる。西洋の人々も日本の地鎮祭同様に定礎式で神に対してその建物の無事完成とその後の繁栄を祈願した慣習があったわけである。尚、その定礎石を「タイムカプセルの蓋」と表現する人もいる。タイムカプセルとは「定礎箱」を指して言っている。定礎箱の収蔵物にもまた明確な定めは無いのだが、施主によっては、氏神様のお札、建築図面、建築関係者の名簿、その日の新聞を入れたりするそうだ。一般的には建物解体まで定礎箱が開けられることはない。だからタイムカプセルに喩えられるのも腑に落ちる。

    以上の通り建物完成時期について職業病的に掘り下げて述べたが、我々はその調査を軽んじてはならない立場にある。重要事項説明においてほんの些細な誤記ですら大きな紛争の火種となることもあるのだから。

     


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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