<2022.9.12記>
残念ながら(?)私は幽霊を見たことが無い。人は理解できない現象をついつい怪奇現象の扱いにして安易に片付けようとする。また、怪奇現象ではないにしても、人の脳は3つの点が集まった図形を人の顔と認識するようプログラムされているそうである。「シミュラクラ現象」と言うそうだ。そう、心細い時に寝床で見上げた天井の木目(節)が人の顔(目・鼻・口)に見えたりするあの現象のことである。本日の思うところは、怪奇現象とされてしまった音に纏わる四方山話としよう!
<空室の上階からこどもの足音が・・・。>
完売していない新築分譲マンションは、建物内に仮設事務所(未販売住戸を養生して宅建業法第50条第2項の届出を済ませた販売拠点)を設け、販売住戸のいくつかを選択し、家具・照明・エアコン・カーテンと小物(雑貨)類を見映え良く設えてモデルルームとする「完成販売」を行うことがある。会社員時代の私が販売苦戦するその現場に後任の責任者として赴き、目標未達の原因を現地スタッフに問い質していた時のこと、仮設事務所(201号室)上階の未販売住戸(301号室、空室)から「タッ、タ・タ・タ・ター」と幼児が駆け出した時のような物音がするではないか。現場スタッフは呪われたマンション(だから販売苦戦している。)とでも言いたげだった。本社で(冗談として)その話をしたら、私の怪談が上手過ぎたのか上司も同僚も真顔で耳を傾け、引渡し済(居住中)の302号室の家族構成を確認しようとする者はいなかった。№54(苦情)や№80(音)でも述べているが騒音は上階からと決めつけてはいけない。時に斜めから、時に下階からも伝わってくる。
<廊下でラップ音、ドアを開けると誰もいない!>
「僕、霊感があるんです・・・。」とあるマンションA室に住んでいた青年の悩みごと。聞けば、時々夜中(深夜、丑三つ時)になると玄関ドア廊下側でラップ音(心霊現象としての騒音)を耳にするのだと言う。ある日、「ヴァン!」とラップ音がしたので意を決し、すぐさま玄関を開けてみたそうだ。「でも、誰もいないんです・・・。」だが、その後の情報を集約してみると真相は次の通り。そのマンションは築古で玄関扉は鉄扉、分譲当時としては珍しい内廊下設計。どうやら同フロアの一室にドアクローザー(ドアが一定の速度でゆっくり閉まるように油圧で調整する装置)が壊れている住戸があるらしい。その居住者が酔って帰宅した際に悪気は無くとも「ヴァン!」と勢いよく閉まってしまうのである。音の発生源は隣戸ではないのだが内廊下だから音が反響してなぜかA室の部屋内から聞くと自室玄関前で発生している音と感じてしまう。青年がすぐさま玄関ドアを開けたとしても、その加害者は音が発生した直後には既に部屋内にいるのだから「誰もいない!(幽霊?)」と思い込んでしまう。では、そのマンション内でなぜ青年だけが聞くラップ音なのか?それは泥酔して帰宅するのは往々にして深夜、そのフロアの居住者は当該2住戸のみ、その他の住戸は全て事務所に供されていたからである。在宅勤務が多くなったし、今時深夜2時まで仕事する人はそういない。
<何もない窓際から「ピッシ、ピッシ、ピッシ」と異音が・・・。>
大体いつも同じ時間帯に窓際から不思議な物音がする。外側は足場も庇も無い腰高窓だから外部からの音ではない。かといって窓際には何も置いていないから音の発生源となる物自体が何も無い。そんな時に確認すべきは、その時間帯の日当りと網入りガラスか否かである。網入りガラスは建築基準法・消防法に基づくものであり、道路面や隣地と近い場所に義務付けられる。火災の際に飛散防止と延焼を防ぐ為の決まりごとである。防犯対策と勘違いしている人もいるが其処までの強度は無い。その「ピッシ」という音が直射日光のあたる時間帯であれば、ほぼ間違いなくガラス内の金属線が伸長して発生する摩擦音である。摩擦音が聞こえる程の事例は滅多に無いが(通常は無音)採用した網入りガラスの商品特性(弱点)によっては日当たりが良過ぎると起こり得る。これが10年、20年と長期続くと「熱割れ」と呼ばれる劣化現象で少しずつガラス面にひびが入っていく。「賃借人が割ったんだ!」と決めつける大家さんも少なくないから、我々は「熱割れ」を理解して貰うのに苦労することがある。因みに、金属線が錆びてガラスがひび割れる劣化現象を「錆割れ」と言う。
その他にも火災報知器の電池切れ(電池寿命10年程度)の警告音(不定期に「ピッ、ピッ、ピッ」といった機械的な発信音)を心霊現象だと怖がっていた人もいたし、屋上アルミ手摺りの風切り音(「ブ~ン」という頭が痛くなる程の重低音)に悩んだ人もいる。音だけでなく「照明が勝手に消灯・点灯する。」といった恐怖映画さながらの怪奇現象もある。(意外とよくある。幹線道路沿いの建物はトラック等の違法CB無線等の影響による誤作動が疑われる。)
寝床で見上げた天井の木目(節)が人の顔(目・鼻・口)に見えたとしても怪奇現象と決めつけてはいけない。やはり、「木目(節)は木目(節)」に過ぎないのだ。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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