<2022.10.13記>
今回のコラムは、収益物件(賃貸用不動産)の主要な投資判断材料となる「利回り」について。収益(インカムゲイン)を主たる目的とする場合に投資家が投資額に対するリターン(賃料)の効率を重視するのは当然のことであり、「利回り」として数値化したものを確認する。投資の検討初期に確認するのが単純利回り(又は、「表面利回り」とも言う。)であるが、それは年間賃料を物件価格で割ったのみの大雑把な数値に過ぎない。算式は、単純利回り=月額賃料×12ヶ月÷物件価格である。つまり、月額賃料10万円(年額120万円)の物件を2,400万円で購入したならば、単純利回りは5%(同物件を3,000万円で購入したら利回りは4%にdown、2,000万円で購入できたなら利回り6%にup)ということ。因みに、空室の物件の場合には推定される賃料相場を当て嵌めるので「想定利回り」と称している。
次の段階で検証するのは「実質利回り」である。「単純利回り」の確認はあくまでも森を見る(俯瞰的に物件を把握する)作業であって、実際の手取り額を確認もせずに購入を決断する投資家などいないと思う。物件概要書に「NOI」と書かれていたら、それはNet Operating Incomeの略である。所有者が管理組合に支払う管理費・修繕積立金や市町村に納める固定資産税・都市計画税といった経費を控除して純収益を求める。仲介人が「(利回りの)Netは○%です。」と言ったなら、この純収益に対する利回り(=実質利回り)のことを指している。しかしながら、更に踏み込んで確認しなければならないNetがNCF(Net Cash Flow)である。これは減価償却費のような支出を伴わない費用や購入資金の支払利息、修繕費(改良費)等の資本的な支出を控除して算出する。
利回りを様々な角度で分析する必要があることは言うまでも無い。例えば、その利回りの根拠となる賃料が適正かどうか。割高な賃料であれば、途中解約の憂き目に遭うこともあるし、フリーレント(募集促進のため賃料無償期間を設けること)を過剰に付与して作為的に設定された割高賃料もその後持続できるものか怪しい。いずれにせよ、持続可能な適正賃料であるかを見極めなければならない。
地方やリゾート地、首都圏近郊であってもバス便地域といった賃貸市場が脆弱なエリアでは、仮にその時点(賃貸中)で高利回りに思えたとしても、将来的な空室率も充分に勘案しなければならない。また、築古(老朽化)物件の高利回りも投資額が小さい(安値になる)から成り立つのであって、将来的な改良費の支出を加味すると直ちに肯定されるものではないし、都心部の築浅・高級仕様物件の低利回りが直ちに否定されるものでもない。都心部で築浅の優良物件を割安で取得するのは至難の業、即ち高値、即ち低利回り、にならざるを得ない。それでも、安定した稼働率やブランド力、流動性比率(換金性)を優先する投資家も多い。
もし、高利回りが容積率超過等の違法建築に因るものであれば、その高利回りはコンプライアンスに照らして再検証する必要がある。本来得られるはずのない賃料は額面通りには評価できない。是正措置に要する改良費の支出を覚悟しなければならないし、悪質な場合は高利回り物件であっても金融機関が購入資金を融資してくれない。用途違反による割高賃料も同じことで正当な果実(賃料)として評価するわけにはいかないのである。(例:事務所限定→飲食店、転貸禁止→民泊運営)
建物管理の運営が正常かにも留意されたい。購入直後に想定外・多額の特別修繕一時金の徴収があれば、NCF(Net Cash Flow)に大きな誤算が生ずる。賃貸管理の健全性も重要で如何に高利回り物件であったとしても家賃を滞納されてしまえば元も子もない。
最終的には売買の予定価格と原価法に基づく不動産の再調達価格とを比較検証すべきと思う。区分所有物件といえども土地相場位は把握しておいた方が良いだろう。仮にキャピタルゲイン(売買差益)が目的ではなかったとしてもだ。まぁ、不動産投資を難しく考え過ぎるとキリが無いし、買主側の理想だけを一方的に追求しても商談は纏まらない。しかしながら、不動産投資は高利回りのみをもって判断できるものではなく、幾つもの「落とし穴」があることは間違いないだろう。当社にご用命とあらば、喜んで、全力で、強力に、貴殿・貴社をサポートさせて頂く。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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