<2022.11.14記>
今となっては健康被害の原因物質として忌み嫌われる繊維状鉱物であるアスベスト(石綿)であるが、その危険性(発癌性)が明らかなものとなるまでは様々な工業製品の材料の他、建材の材料としても重宝にされていた。安価な天然産出の材料でありながら、耐火性、断熱性、防音性、絶縁性(電気を通しにくい性質)に優れ、酸やアルカリなどの化学薬品にも強いからだ。尚、一括りに石綿と言っても種類は多く、クリソタイル(白石綿)・アモサイト(茶石綿)・クロシドライト(青石綿)・アンソフィライト(直閃石綿)・トレモライト(透閃石綿)・アクチノライト(陽起石綿)が挙げられる。また、その特性である耐熱性・耐薬品性(≒耐酸性・耐アルカリ性)だけでなく、危険性もそれぞれ大きく異なる。
ようやく2012年(平成24年)に石綿含有量が重量の0.1%を超えるもの全てにつき、その製造、輸入、譲渡、提供、使用が禁止された。これにより、法令上は石綿の使用等が全面的に禁止されたということになる。因みに人体への危険性が高い角閃石族に分類されるクロシドライトとアモサイトは1995年(平成7年)に製造等が禁止されたが、角閃石族に比べれば危険性が低い蛇紋石族に分類されるクリソタイル(使われている大半の石綿はこれ!)の製造が禁止されたのは2004年(平成16年)である。また、建築物等の解体・改造・補修工事に伴う石綿の飛散防止を徹底するために、大気汚染防止法の一部を改正した法律が2021年(令和3年)に施行され、一定規模の建物解体等工事の場合は元請業者に対し、石綿含有建材の有無に拘らずに調査結果の都道府県等への報告が義務付けられた。今後も2022年(令和4年)から2023年(令和5年)にかけて、事前調査は有識者が行わなければならない等、一層ルールが厳しくなる。我々不動産業界も2006年(平成18年)の宅建業法の一部改正により、不動産取引の重要事項説明の際に「石綿(アスベスト)の使用の有無の調査の結果の記録」の有無(売主・貸主がその調査をするかは任意)を説明のうえ、記録がある場合は宅建業法の定め(宅建業法第35条1項14号)により、その内容について説明することが義務付けられている。
ところで、有害と分かっていながら段階的な使用・製造の禁止となったのは何故か。それには幾つもの理由がある。危険性が個々に異なることもあるが、どの石綿も飛散して人体に吸引されない限り人体への悪影響が無いとされる点が大きい。事実、人造大理石の強度を増すために石綿が数%練り込まれていたとしても日常生活において何ら危険性は無いだろう。私の小学生時代(昭和40年代)は理科室に珍しくもない実験器具(アルコールランプの上に置いてビーカーなどを載せる石綿付金網)の一つとして誰もが手が届くところに保管されていた。だから、理科室の掃除当番をさぼって無邪気に石綿付金網をブーメラン代わりに投げて遊んだりしたものだ。(今考えると少し怖い)穿った見方をすれば、石綿に代わる安価な代替品(新素材)の開発に時間が掛かり過ぎたこともあるだろう。また、吸引してから十数年、いや数十年と長い潜伏期間を経て発症するから健康被害と石綿の因果関係の解明が難しく、世間の厳しい目が向けられなかったことも一因かもしれない。
石綿が使用された建物の解体工事は想定外の高額なものとなるが、これからは調査書・報告書に掛かる費用も事業主に重くのし掛かることだろう。しかしながら、人命・健康に関わることならば経費の多寡、支出の是非を過度に論じるべきではない。大切なのは「正しく恐れる」こと。それはコロナVIRUSとて、コラム№131の怪奇現象とて同じことだ。繰り返すが「石綿は飛散して人体に吸引されない限り人体への悪影響が無い」と信ずるに値する調査結果がある。
<参考>
厚生労働省ホームページ:アスベスト(石綿)に関する策Q&A
国土交通省ホームページ:アスベスト対策Q&A
東京都環境局ホームページ:東京都アスベスト情報サイト
公益社団法人全日本不動産協会ホームページ:不動産お役立ちQ&A
※各タイトルにURLを貼付けてあります。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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