思うところ１３７．「磁石」 | 東京駅・茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

思うところ１３７．「磁石」

＜2022.12.15記＞
当社の事務所入口扉に設置された社名プレート（以下単に「プレート」）は裏面に磁石が貼られているお陰で粘着剤の類いは一切使用されていない。その扉の面材は木目調のダイノックシート（塩化ビニル系樹脂フィルム）で化粧（従前のテナントが改良したものを継承・他の事務所扉はペンキ塗装）されており、見た目が木であっても鉄扉だから脱着は容易である。このプレートは当ビルオーナーが入居時に無償で手配してくれたものだ。私はこれをとても良いアイディアだと思っている。

何故なら、入口扉用に磁石で張り付くプレートを入居前に配布しておくことが扉の汚損・毀損防止策になるからである。（プレート規格の統一は美観保持にもなる。）何故にそれが扉の汚損・毀損防止策になるかと言えば、扉へのプレートの設置方法をテナントの裁量に委ねてしまうと強力両面テープや接着剤で無神経にも直付してしまう虞があるからである。元々悪気があってすることではないのだが、退去時（原状回復工事の際）になってようやくその問題点に気付くことが多い。そのプレートを剥がそうとすれば必然的に扉のペンキ塗装も剥がれてしまうのである。テナントとしては、その為だけに塗装職人を呼んで扉一枚を塗り直せば費用も馬鹿にならないので部分補修で済ませて欲しいと懇願する。だが、色合わせが難しく部分補修ではなかなかオーナーは納得しない。無惨にも塗装が剥がれてしまった扉を見てビル－オーナーが憤る気持ちも良く判る。

よく似た話が浴室の壁面に打ち込んだ金属製のビス。シャワーのフックの位置を変更しようとしたり、タオル掛けや棚を増設しようとしたりして安易にビスを浴室壁面に打ち込む人がいるが、そもそも下地が入っていなければビスで留まるものではない。（しかも鉄製ビスは錆びる。）DIYの流行もあるのだろうが、家主の承諾無くそんなことをしてはならないのである。いや、それを相談されたところで賃貸管理会社が家主に取り次ぐレベルにない。下地が入っていないから設置の目的を果たすことができないうえに漏水事故の原因にもなるからである。

そんな時は磁石で設置可能なアイディア商品を推奨する。意外と知られていないことだが、一般的なユニットバス壁面の裏側には鋼板（鉄板）が入っており、その外側は断熱材の三層構造になっている。つまり、「磁石は壁面に張り付く」のである。試しに自宅の浴室壁面で実験して貰いたい。（凹凸がある壁面や在来工法・壁面タイル貼りの浴室はNG）それが確認できたなら、ホームセンターやネット通販で探せば、磁石で設置可能なシャワーフック、小物棚、タオル掛け等、様々なアイディア商品が見つかるはずだ。それなら好きな場所に設置・移設・増減がとても簡単である。

残念ながら、それら商品の弱点は軽量なものにしか耐えられないこと。随分昔のことであはるが「超強力磁石によって浴室内に手摺りを後付け可能！」と謳うアイディア商品があるとの情報を得た。「そんな馬鹿な！！」と思いつつも早速購入して実験してみた。案の定、体重を支える程の耐荷重はなくインチキ商品だった。その脆弱さを知らぬ入居者が手摺りに全体重をかけて転倒したら大事故になることは想像に難くなかった。当然に高齢の入居者へのプレゼント企画を断念せざるを得ず、その様な危険な商品を平然と高齢者向けに製造・販売する者に怒りを覚えた。

此処までお読み頂いた時点で今回のコラムを「前回のコラム（№136 Goodアイディア）の後編に過ぎないのでは？」と物足り無さをお感じになった方がいるかもしれない。本年を締め括るコラムとしては相応しくないと。しかしながら、本質的には家主や借家、人と物の両面に対してのあるべき節度や配慮を説くものであり、核心の部分は№69（EQ）のテーマ（心の豊かさ）に近い。

あるご高齢のご婦人（90才間近ながらお元気に独居）が、全フローリングにカーペットを敷き詰め、妙に冷蔵庫を壁から離してお住まいになっているので不思議に思って理由を尋ねてみたことがある。ご婦人曰く「せっかくの綺麗なフローリングでしょ、汚したら大家さんに申し訳ないと思ってね。冷蔵庫の背面はクロスが（薄黒く）焼けるしねぇ。（焼ける＝静電気焼けのこと）」その住まい方（使い方）には些か疑問を感じつつも、ご婦人の家主に対する気遣いと人様の物を大切にしようとする昔気質に（今時に言うならば、）思わずほっこりした。