思うところ139.「地主の承諾(前編)」 | 東京駅・茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ139.「地主の承諾(前編)」




    <2023.1.14記>
    当社では借地権付建物の売買を取り扱うことも多い。当社が売主となる借地権付建物(=仮称:ランディア門前仲町、未完成物件)の発売が間近になったのを機に「地主の承諾」について触れておきたいと思う。まず、借地権付建物を手際良く取り扱うには、土地の権利が所有権の物件なら売主・買主(&仲介人)の単純な関係で済むのに対し、借地権売買は其処に地主(=底地権者)が当事者として登場する三つ巴の関係になるということを理解しておかなければならない。

    借地権であってもその権利の種類が地上権なら支配権としての排他性を持つ「物権」であるから自由に売買できるのだが、「権原(=法律行為又は事実行為を正当とする法律上の原因)」が賃借権であると請求権としての排他性を持たない「債権」であるから、仮に新・旧新借地権者が売買条件に合意したとしても取引を成立させるには、それを地主が承諾することが大前提になるのである。

    取引の成立には概ね四つのハードルがあると考える。一つ目は、その買主が売却先(=新借地権者)になること(=名義変更、名義書換)を地主が承諾してくれるか否か。例えば、個人・法人に限らず新借地権者としての適性(地代の支払能力等)に説得力が無ければ地主は納得しないだろうし、外国籍の個人が新借地権者となると帰国されてしまった場合に地代の不払いがあっても請求が困難になるので難色を示すと思う。また、どんなに資金力があったとしても後継者がいない単身の高齢者個人名義であると地主は不安になる。それぞれ地主が安心できる連帯保証人の存在無くしては認められ難いと思う。尚、地主の承諾を売買契約の停止条件にさえすれば良いというものではなく、地主に良く相談してから契約手続きに着手することをお勧めする。当然のことだが、契約してから相談するよりも、相談してから契約する方が地主の心証が良いのは当然のこと。地主の承諾の見込みがないならば、そもそも売買契約を締結すべきでないと思うからでもある。

    二つ目のハードルはその承諾の対価として売主が地主に支払う名義変更料(「名義書換料」とも言う。旧借地権者が負担するのが慣習的)が受容できる額か否か。一般的には「売買価格の10%程度」といった一定の相場があるが、名義変更料についての絶対的なルールが無く、地主に具体的な取引予定を以て承諾を求めない限り、その額を提示してくれないこともある。一番困るのは法外な名義変更料を提示されることであるが、地代(固定資産税の3倍程度を月額換算したものが一つの目安)の値上げ要求も取引の障害になることがある。言い難いことだが法外な名義変更料の要求が取引の破談を目的とすることさえある。地主が借地権付建物を安く買い取りたいとの思惑があったりするからだ。これは時を経て借地権価格が跳ね上がったことの影響が大きい。東京都心部の「路線価図(国税庁発行)」をご確認頂きたい。不動産価格の高騰もさることながら商業系一等地の借地権割合(底地権との比率)は80%以上が多い。つまり、税務上の視点で商業地を評価するなら借地権の方に圧倒的価値があることになっている。だからこそ、(相続対策等)節税に良いのだと考える地主もいれば、借地権を買い取ることによって所有権として再評価されたいと考える地主もいる。裏返せば、借地権者が底地を買い取ることができれば借地権者の資産価値は飛躍的に大となるだろう。(残念ながら底地としての相場程度では地主が納得しないことが多い。)

    三つ目のハードルは、建替承諾料(=新借地権者が負担するのが一般的)が受容できる額か否か。勿論、既存の建物の使用収益に問題が無ければ従前の借地契約の残存期間を継承するのみとすれば良く、その場合は建替承諾料は発生しない。しかしながら、借地期間満期には更新料(更地価格の2%~5%程度が相場)の支払いがその時点の借地権者に求められるであろうことに留意されたい。誤解無きよう補足説明しておくが旧法に基づく普通借地権は借地権者の権利が強固に守られており、借地権者が更新を申し出れば(ほぼ間違いなく)更新することができると考えて良い。地主が更新を拒絶する場合には、借地権者を退去させるだけの正当事由が必要であり、仮に正当事由が認められたとしても、借地権者は地主に対して建物を時価で買い取ることを請求できる権利を有するし、正当事由が脆弱である場合には、その脆弱性を補完し得る額の立退料も請求できるわけである。

    さて、建替承諾料の話に戻るが建替承諾料についても絶対的なルールが無い。非堅固な建物の所有を目的とするか、堅固な建物の所有を目的とするかで承諾料の額は異なるし、借地権者が建てたいと考える延床面積でも異なる。要するに構造と規模で承諾料も増減するのが一般的と考えて頂きたい。借地期間を20年とする木造平家建(延床30坪)と借地期間を30年とする鉄筋コンクリート造5階建(延床150坪)が同額の建替承諾料にならないのは当然のことだろう。

    此処までは不動産業に携わる者なら誰もが知る(知るべき)借地権付建物取引の一般論を述べた。紙面の都合もあり「意外な落とし穴」となる四つ目のハードルは次回コラムにて。


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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