思うところ140.「地主の承諾(後編)」 | 東京駅・茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ140.「地主の承諾(後編)」




    <2023.2.1記>
    前回のコラム(№139地主の承諾)の冒頭で借地権売買には概ね四つのハードルがあると申し上げておきながら、紙面の都合で三つ目までしか書けなかった。よって、今回はその続き(後編)となる。

    四つ目のハードルは、買主(新借地権者)がその借地権付建物を担保に供して購入資金を調達しようとした場合、購入資金を貸し付ける金融機関が地主(底地権者)に差し入れを求める「地主の承諾書」発行の可否である。勿論、建物のみの抵当権・根抵当権の設定であれば法律上は建物所有者の自由であるのだが、問題は金融機関が求めるその書式に地主が署名押印してくれるか否かにある。

    土地の賃借権は,その土地に建物があって、かつ借地権者が地代を約定通り支払っている限りにおいては、地主からは一方的に解除することができない極めて強固な権利なのだが、借地権者が地代の支払いを一定期間怠った場合は、地主から借地契約の解除を申し立てられかねない脆弱性があることも否定できない。だから、金融機関はこの脆弱性を補完する為の一文を加入した「地主の承諾書」の差し入れを融資条件とするわけである。

    では、その一文とは何か。典型的な条項としては、「地主は借地権者が地代の支払いを延滞(=解除事由が発生)したときは金融機関に通知しなければならない。」といったものである。その一文によって借地権者が延滞した地代について利害関係人として地代を弁済する機会を確保したいと考えるわけだ。要するに、金融機関が代わりに地代を支払うことによって借地権の競売や任意売却が完了するまでは借地契約が解除されないようにするのである。尚、金融機関によっては借地権に質権設定まで要求することもあるが、それについては些か行過ぎた要求であるように思う。

    それらの金融機関の要求に対して借地権者の都合で作為義務が課されることに納得できない地主も多い為、必ずしも「地主の承諾書」は発行して貰えるとは限らない。対して殆どの金融機関が前述の「地主の承諾書」の差し入れを融資の条件とするわけであるから、「地主の承諾書」が取得できない時は、自ずと買主が全額自己資金で購入可能な人か、別の担保物件を提供できる人に限られてくる。

    ところが、所有権価格と比べれば廉価の借地権ではあっても、都心部の借地権に無借金で建物を建てることは容易なことではない。よって、買いたいと思う人を見つけることは難しくないがその人が借地権の購入を可能にする為の資金調達が難しいのである。それが四つ目のハードルの核心の部分と考えて頂きたい。

    私は、この問題について次の様に考える。地主が金融機関に協力することは借地権売買の流動性を高めること(売買の活性化)に繋がる。流動性が高まるということは借地権価格の資産向上に繋がり、借地権価格の資産向上は底地権価格の資産価値向上にも繋がる。そのうえ、借地権売買の都度に名義変更料や建替承諾料なる一時金も期待できる。つまり、地主が新借地権者の為に金融機関に協力することは、巡り巡って自身の為にもなるということである。「情けは人の為ならず」とも考えられるし、近江商人の行動哲学「三方良し」にも相通ずるものだ。

    その様に考えれば地主の抵当権者・根抵当権者に対する解除事由発生の通知義務を「無用な作為義務」が課されたとして過度な反発をするのは如何なものかと思う。ストレスを感じるよりも、作為義務が課されたことの対価としてビジネスライクに抵当権・根抵当権の設定にも承諾料を要求できる好機(ビジネスチャンス)と考えれば良いのではないだろうか。(現に「抵当権・根抵当権設定額×0.?%=抵当権設定等の承諾料」といった算出基準を設けて収益化している地主もいる。)長年の借地権者との良好な関係を壊してまで一足飛びに借地権を消滅させることなど望むものではあるまい。借地権者が困窮の状態にあるならば尚更のこと、財務的に健全な新借地権者に引き継がれるよう後押しするのが賢明な策と考えても良いのではないかと思う。

    四つ目のハードルに関しては、健全な不動産取引を阻害する法律上の不備に思えてならない。


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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