思うところ147.「在宅勤務」 | 東京駅・茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ147.「在宅勤務」




    <2023.5.15記>
    先日、TV番組で波瀾万丈の半生を送るチンパンジーの特集をやっていた。彼女の名は「マツコ」という。ワシントン条約が批准され、絶滅危惧種として輸入が禁じられる直前の1979年10月に推定1歳半で来日。4歳からは静岡県の水族館でイルカの水中ロデオショーに騎手として出演、たいそうな人気者だったそうである。だが、水を怖がるようになって騎手を引退。その後は動物園を転々とする。(計4園の移動)元は野生とはいえ、幼少期から人間の中で育った彼女は群れに馴染むことが出来なかったのである。そんなマツコでも何とか群れの一員となって2012年には息子(リョウマ)を出産した。その後、育児ができない仲間(イチゴ)が産んだ子(チヨ)の代理母を務めるまでになる。完全人工保育だったチヨの生みの母イチゴは、マツコ以上にチンパンジーとしての社会性が欠如していた。育児放棄というよりも、赤ん坊に対してどう接すれば良いのか判らなかったのだ。

    チンパンジーは群れの中で育たないと他の個体とコミュニケーションが取れなくなる。群れの中で己の立場をわきまえることや子育てができなくなるのだ。言葉こそ操れないが知能も高く人に最も近い猿の一種であり、人間と同じ「社会的動物」である。(因みに日本人は、「社会的動物」どころか家庭を顧みずに仕事ばかりする「社畜(会社的動物)」だと外国人に揶揄された時代もある。)教わらずとも本能で生き抜く昆虫や魚類と異なり、「学習」や「経験」が必要不可欠なのである。

    ふと思った。コロナ禍にあって在宅勤務で育った新人達は大丈夫か?入社して早々に在宅勤務となった今時の新人達は「先輩の背中」を見て学ぶ機会が極端に少ない。パソコン画面を通じての指示伝達のみに対する報連相(報告・連絡・相談)ばかりでは冷めた人間関係しか築けないのではないだろうか。未だに同僚との懇親はオンライン飲み会で済ませる会社があると聞く。学ぶべきは、優秀な上司・先輩の行動ばかりではない。「反面教師」の存在さえもが成長の糧となるし、失敗の多い人に限って人間的には面白かったりする。ちょっとした質問を投げかけることのできる隣席の先輩や問題発生時に頼れる上司の存在しない閉鎖的空間が健全な職場とは思えない。

    以前、ZOOM (=Web会議用クラウドサービス≒複数人同時参加可能なビデオ・Web会議アプリケーション)で商談を進めたお客様との初対面の時、見上げる程の背丈に面食らったことがある。パソコン画面ではご本人の身長が190cm半ばもあろうことなど気づきもしなかった。背丈だけではない。人の内面は会わねば判らないこともある。私は眼鏡を外すと途端に耳が遠くなってしまう。聴力に頼らず、相手の表情や仕草でその人の真意を汲み取る比率が普通の人より高いからだと自己分析している。

    クリエーター(WEBデザイナー・執筆業等)やSE(システムエンジニア)なら在宅勤務の方が効率的なのかもしれないが、不動産業における多くの職種は孤高の在宅勤務が不向きなものである。些細なことなら、バーチャルアシスタントSiri(シリ)に聞けば良いというのだろうか?報告書や提案書も全てChatGPT(生成AI)に委ねてしまう時代が到来するというのか?それでは、人間の存在価値が小さなものになってしまう。以前(コラム№15「AI」)で書いた底知れぬ不安が現実のものと成りつつある。

    所詮人も猿の一種。群れの中にあって切磋琢磨すべき社会的動物なのである。猿山には時折諍いもあると思うが、極寒にあっては猿団子を作って暖を取る。人を孤独な世界に追いやってはいけない。


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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