<2023.11.1記>
今回のコラムで取り上げるのは入居者の退去時に賃貸管理会社を悩ます「ゴム汚染」について。併せて「電気焼け」についてもほんの少し解説しておきたい。
「ゴム汚染」とは、塩化ビニール製のクッションフロア(以下「CF」)等と滑り止め等のゴムやプラスチック製品の成分が化学反応を起こして接地面が変色してしまうことを意味する。トイレや洗面室といった水廻りの床材は耐水性に優れた材質であることを大前提にしつつ、割安な材料であることが決め手となってCFを採用することが多いのだが、そのCFの上にゴム製品を長期間放置すると初期は淡い黄色、その後黄褐色、製品によってはグレーや黒に変色してしまうのである。それは化学反応による変色ゆえ、どんな洗剤で擦っても落ちないから単に附着した汚れと区別して「ゴム汚染」との表現を用いている。「汚染」の語感に抵抗感がある人は、「色移り」などと言ったりもするが、あくまでもCFに添加された可塑剤(ビニル樹脂に柔軟性・弾力性を持たせるための成分)とゴム製品に含まれる酸化防止剤等が引き起こす化学反応であるから、洗濯物のように色が移ったと考えるのは間違いであると思う。
「ゴム汚染」の実例を申し上げれば枚挙に暇無い。新築同然の内装で入居して貰ったにも拘らず、空室となった2年後の洗濯機置場(防水パン無しの直置きスタイル)のCFは防振ゴム跡4箇所がくっきりと黒ずんでいたし、プラスチック製の洗濯カゴをいつも同じ場所に置いていた人の洗面室のCFは接地箇所と思われる四隅が黄色く変色していた。また、盗難防止のために夜間は自転車を玄関内側に保管していた人が住んでいた部屋の床タイル(白系淡色の硬質塩ビタイル)は、無惨にも濃淡ある幾筋かの黄色いタイヤ痕が付いていた。もし、滅多に使うことの無いトイレのラバーカップをCFに直置きしようものなら、退去する頃には黄褐色の円紋様に冷や汗をかくことになるだろう。恥ずかしながら、かく言う私にも失敗談がある。ある販売現場の棟内モデルルーム数戸につき、バルコニーのノンスリップシート(長尺塩ビシート)上にゴム製サンダル(見学者用)を配置しておいたところ、3週間程で変色が始まってしまった。(経験知で申し上げると100円ショップで売られているような安物のゴム製品ほど変色が早い。添加物に何らかの原因があると思う。)そんなことがあって以来、販売住戸の見学者用外履サンダルは掃出し窓の内側に収納トレーを置いて保管することを心掛けている。
「ゴム汚染」に似た現象が家電製品の背面壁紙(以下「クロス」)に起こる「電気焼け」である。誰しもが引越しや家具のレイアウトを変更する際に冷蔵庫、電子レンジ、テレビの背面クロスに独特な黒ずみを発見したことがあると思う。一般的には電化製品が放出する熱でクロスが変色してしまうのだと説明されることが多い。だが、「電化製品が帯びる静電気によって吸い寄せられた窒素酸化物等の微粒子が熱によってクロスに焼き付けられたもの」と考えるのが私の腑に落ちるところである。それは複写機の原理に似ていて「焼き付けられたもの」だから洗剤で擦っても完全に払拭することはできない。(やや改善はする。)
どれも貼替えを決断する程の黄ばみ・黒ずみではなく判断を迷う。迷うのは貼替えの時期ばかりではない。建材の「経年劣化」と考えるのか、入居者の「過失」と考えるかの判断が難しい。家主の憤る気持ちも分からぬでもないが、入居者にしてみれば普通に暮らしていただけのことである。勿論、入居者に悪気があろうはずもない。正直なところ、冷蔵庫の背面や洗濯機置場の床部分は新たなる入居者の生活が始まればどのみち隠れてしまう場所ではないかとの思いも我々の胸中何処かにある。もっとも、対象物件の所在地が東京都内であれば、「賃貸住宅紛争防止条例」によって入居者の立場が手厚く保護されており、その改修費は家主の負担とされる。
確かに配慮と知識があれば避けられる汚れではある。「電気焼け」については、電化製品を壁面から少し離して配置するだけでも汚れは劇的に軽減される。また、「ゴム汚染」、「電気焼け」のどちらもが、板等の遮蔽物(紙でも可)を挟んでおく「ちょっとした配慮」をするだけで防ぐことができるのも事実だ。ところが、どちらも板挟みに陥っているのは我々賃貸管理会社の方であるのが虚しい現実。どうか入居者の皆さま、もう少しのご配慮を。家主の皆さま、もう少しの寛大なるご判断を。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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