思うところ166.「鈍感力」 | 東京駅・茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ166.「鈍感力」




    <2024.3.1記>
    いつぞや出典を作家の渡辺淳一氏のエッセイとする「鈍感力」につき、元総理が引用して話題となったことがある。その「鈍感力」が意味するところは間違っても「無神経」や「がさつ」のことではあるまい。無論、ストレス耐性を獲得するうえで必要とされる「大局観」や「大らかさ」を指してのユニーク表現なのだと思う。当時は人気者の元総理が口にしたこともあって世間の耳目を集めたが、実のところは「鈍感力」という造語が斬新な表現であったに過ぎず、取り立てて革新的な新発想とは思えない。言わずもがな古来より和を以て貴しと為す我々日本人が処世術としても重んじて来た哲学的思考のことだと思う。

    とかく不動産業にはそういった良い意味での「鈍感力」の必要性を感じることがある。なぜなら、不動産業で取り扱う商品も我々自身も精密機械ではないからだ。何かと過度な精度を求める人がいるが、その要求が無理難題や理不尽、優越的地位の濫用であってはならないと思う。我々(当社)は、その場しのぎの実現困難な約束をするくらいなら、むしろ対象物件の品質や請け負う業務内容に関して容認事項や責任の範囲をより明確に定めることに注力すべきだと思っている。

    例えば、コラム№11に登場する困った人。その昔、約束した訪問時刻に数十秒早く到着しただけでマナー違反だと営業マンを罵倒する有名なクレーマーがいた。(数十秒過ぎれば「遅刻」と見做される。)時間厳守は当然のビジネスマナーだが我々は秒単位で仕事しているわけではない。同じコラムで施主が几帳面過ぎる貼り方を指示したが為に発生したフローリング施工の失敗例も紹介した。巾木で隠してしまう僅か数ミリの隙間だから見たこともないと思うが、そのゆとりを設けずに壁に密着する程の過密なフローリングの貼り方をすれば梅雨時には湿気で伸長した床材は逃げ場を失って湾曲しかねないのである。コラム№33で取り上げた更地渡しに関して言えば、庭石や庭木を売主が無断で放置したならともかく、多少の石ころや些細な雑草に買主が目くじらを立てるのは如何なものかと思う。コラム№80で取り上げた音の問題も同じことだ。我々は生活するうえで悪気はなくとも時として騒音で隣人に迷惑を掛けてしまうことがある。うっかり床に金属製スプーンを落としてしまうこともあれば、赤ん坊は泣くものだし、が吠えてしまうこともある。不動産業という仕事柄、「音を出さないで工事しろ!」とリフォーム工事中の現場に怒鳴り込まれたこともあるが、当社に限らず全く音を出さずにスケルトンリフォーム工事(配線・配管に至るまで一旦解体撤去して行うフルリフォーム工事)を行うことは現在の技術水準では不可能である。

    私の会社員時代の古い話だが、新築マンションの内覧会(引渡しの前に行う内装の仕上がりを購入者に目視確認して貰うイベント≒完成お披露目会的なもの)で目撃した内装仕上がり(キズ・汚れ・不具合のチェック)に関する個人差も例として挙げておく。1住戸当たり平均10項目程度しか指摘されない施工状態が極めて良好な建物の内覧会だったのだが、ある人の指摘箇所は100項目以上もあった。勿論、住戸は違えども同程度の仕上がりに対しての厳しい評価である。私の目から見てもお客様の指摘事項はあまりにも病的で行き過ぎた要求だと思ったが施工会社の担当者が「ハイハイ」と安易に手直しを約束してしまうから口を挟む余地が無かった。案の定、後日(手直し確認会の場で)そのお客様と施工会社は揉めていた。量産品のクロスを一枚もののように全く継ぎ目無く貼ることなど不可能に近いのである。だから約束する方も悪い。正直に「できないものはできない」と回答し、「なぜできないのか」を丁寧に説明した方が余程賢明であると思った。

    だが、超人的な聴覚や嗅覚を持つ人達については「鈍感力」という心の持ち様では解決できない問題もある。そういった天賦の才とも言うべき特殊な能力を持つ人は実在する。さすがに顕微鏡レベルの超人的な視力を持つ人は実在しないが、もしそんな人がいたなら、世の中が微生物・雑菌だらけ(はキズ、汚れだらけ)の醜いものに見えてしまうことだろう。

    「木を見て森を見ない人」は些細なことでストレスを感じることが多いはずだ。やはり、他人との無意味な衝突を避けて日々穏やかに暮らす為にも「鈍感力」は必要不可欠な「心の豊かさ」と言えるだろう。車のハンドルに「遊び」と呼ばれるゆとり(余裕)の一定幅が必要であるのと同じことである。コラム№69で取り上げたEQ(Emotional Intelligence Quotient=感情指数≒心の豊かさ)を具体的に数値化しようとする時、「鈍感力」は「寛容度」とでも名を変えて主軸の分析項目となるに違いない。

     


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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