<2024.7.1記>
私なりの正論を吐いたつもりのコラム№167(借地借家法)の続編ながら、今回のコラムは屁理屈を申し上げる。自ら屁理屈と前置きするだけあって結論としてはこの自説は現時点では正しくはない。だが、本コラム欄は言論自由の場と位置付けているのでいつも通り好き放題に書かせて頂くとする。
前編(コラム№167)で立退問題については弁護士法第72条の定めにより弁護士資格無き者が報酬を得ることを目的に家主(貸主)代理人として店子(借主)に対して交渉ができないことを述べたが、その定めについては業界人としてやや不満に思うところがある。勿論、苛烈な交渉の場に巻き込まれることを自らが望むはずもないのだが、大切な顧客が困っているときに思うようにサポートできないのは心苦しい。確かに交渉相手と戦うことに主眼を置くならば弁護士が活躍する場面であることに異論は無いのだが、家主と店子とが内心では歩み寄りを望み(≒裁判まではしたくない)、紛争に至っていない段階ならば、双方と付き合いの長い我々(賃貸管理会社)の方がその職務に向いていると思うのである。
我々ならばそれまでの良好な関係が拗れぬよう、立退きを急く家主に「一方的な自己都合でそんな急に退去を求めるのは少々無理があるのでは?」と苦言を呈することは今までにもあったし、法外な立退料や情報提供不可能な代替物件の要求をする店子に「長年の恩を仇で返すような条件提示はすべきではない!」と力強く諭すこともできると思う。無論、それは解決に導くための良識ある所見や意見に過ぎず非弁行為とは思えない。コラム№167(借地借家法)で述べたように関係法規の再整備やガイドラインさえあれば我々不動産会社でも円満解決できるはずだ。因みにコラム№167(借地借家法)で提言した「建物の定年制度」における家主の責任をあくまでも「減免」として「免責」とまで踏み込まなかった理由は過剰に家主側に偏った法整備をすれば、賃借権が不安定になり過ぎて需要そのものが無くなるからであり、延いては家主・店子双方の不利益になりかねないからだ。不動産を貸して果実(法定果実、ここでは賃料)を得るからには家主だけがノーリスクとはいかない。当然に適度なバランス感覚が必要なのである。
さて、ここからは屁理屈と言われても致し方ないのだが、法的にも立退料の本質を「解決金(迷惑料)」と考えるのではなく、「借家権の売買代金」と見立てるのが本筋ではないだろうか。それならば立派な不動産取引だと思う。言い換えれば、「家主自らが借家権を買戻してその権利を消滅させる」という法解釈を前面に打ち出すべきではないか、ということを申し上げている。立退問題にはそういった側面があることは全否定されるものではないと思う。それならば、「紛争」ではなく単なる「不動産取引」であるのだから立退料を売買代金と見做して宅建業法に定める料率を当て嵌めれば良い。(400万円超の取引価格なら速算法で3%+6万円とその消費税が上限)これに近い考え方として(実務上では稀なケースになるが、)居住用建物以外の賃貸借で権利金等の授受がある時は賃料の1ヵ月相当額の成功報酬を上限とする他にその権利金等(権利設定の対価、後日返金されない性質のもの)の額を売買代金と見做して報酬を算出する選択肢があることに是非ご注目頂きたい。(宅建業法第46条第6.権利金の授受がある場合の特例)建物明渡訴訟に要する弁護士費用や、その為に不動産鑑定士が作成する「立退料鑑定書」や「意見書」、建築士らが作成する「エンジニアリングレポート」等の諸費用を考えれば、我々不動産会社が紛争に発展する前に「不動産取引」として纏めたいものである。
ある居酒屋さん(個人事業主)が老朽化に伴って更地渡し予定の古ビルの売却に伴い2,000万円の立退料を得た、としよう。立退料が事前入金されたその年の師走、店舗移転を惜しむ常連客が忘年会を兼ねて度々大宴会を催してくれたお陰で例年に無く売上が伸びた、とする。翌年確定申告して気付くと思うが売上が急増した年に多額の立退料を受け取ってしまえば所得税は倍増しかねず、結果立退料の実質は半減する。新店舗開設で余儀なくされる休業で売上が半減する新年度に立退料を受け取るべきだったことに後から気付くことになるだろう。我々でも立退料の受取りの時期や方法位はアドバイスできると思う。だが、税務的な助言が目立つようになれば今度は税理士団体が黙っていないかもしれない。個人的には日本が抱える今後の建物の老朽化問題をより早く解決する為にも賃貸借期間(私案:長期5年、超長期10年超)に応じて立退料にインパクトのある税制優遇(相当額の控除)が必要(要件の私案:家主・店子に資本関係が無く利益操作に該当しないこと)だと思っている。居住用不動産の売却益に適用できる3,000万円控除の特例や長年の労に報いる定年退職金にも優遇税制があるように。すると今度はお上に煙たく思われるか・・・。
夏目漱石が小説「草枕」の冒頭に有名なセリフを残している。文豪が主人公の胸の内を借りて曰く「智に働けば角が立つ、情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかく人の世は住みにくい。」その名文に何となく共感を覚える今日この頃、我輩は不動産屋さんである。「輩(やから)」ではない。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
オフィスランディックは中央区を中心とした住居・事務所・店舗の賃貸仲介をはじめ、管理、売買、リノベーションなど幅広く不動産サービスを提供しております。
茅場町・八丁堀の貸事務所・オフィス, 中央区の売買物件検索コラムカテゴリ