思うところ168.「路地状敷地」 | 東京駅・茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ168.「路地状敷地」




    <2024.4.1 記>
    新人読者コラムニストのKoalaさんが読者コラム第65号「旗竿地」を寄稿してくれた。良い機会なので宅地建物取引業者としての視点からも「旗竿地(=路地状敷地)」について少し解説と補足説明をしておきたい。本コラム内容はKoalaさんのコラムを一読してからでないと理解できないと思う。(まずは読者コラム第65号をお読み頂きたい。)

    Koalaさんのご実家の土地は権利関係が難しい旗竿地に分類される。現在の幅員2mの通路は隣人と敷地を提供し合って形成されているわけであるから新築・増改築する際には隣人の協力(通路部分の敷地提供の承諾)が必要不可欠なものになる。よって、建築基準法の接道義務に不足する寸法がKoalaさんの言う通り僅か20cm弱であるとすれば実に配慮に欠けた商品企画だったことになる。「昭和30年代の小規模分譲地(売建方式、全7区画)」とのことなので同業者としては情けなくもあり悲しくもなるが「さもありなん!」と思ってしまう。我が国が戦後復興期から高度経済成長期に移行して住宅不足が明らかな頃であった。今に比べると驚く程に杜撰な重要事項説明が珍しくもなかったが常に売り手市場であったから世間に「千三つ屋(嘘つき)」と蔑まされる不誠実な不動産会社(侮蔑の意を込めて以下「千三つ屋」)でも家は売れに売れたのである。不動産取引に不慣れなKoalaさんのご両親はそんな時代の荒波に揉まれて人知れず苦しんだ被害者だったのだと思う。

    前述の「配慮に欠けた商品企画」との見立ての他に私には三つの仮説がある。一つ目(仮説1)は、分譲地を分筆したのは千三つ屋ではなく、建築基準法施行(昭和25年11月23日)の前に元の地主が行なったとするもの。しかしながら、Koalaさんに地積測量図の作成日を確認して貰ったところ昭和39年の日付(土地が売買された頃)になっている。昭和34年1月1日にメートル法が完全実施されていたにも拘らず、有資格者(土地家屋調査士)たる者がなぜ尺貫法で地積測量図を作成したのかは疑問が残るが千三つ屋が区画割の再整備を怠ったことに変わりはないから憤りを感じざるを得ない。

    二つ目(仮説2)は千三つ屋が目先の利益を優先するあまり、整形地がより良い値段で売れさえすれば良し(旗竿地は「捨て駒」)とする「守銭奴的販売戦略」だったとする説である。旗竿地の間口を犠牲にしてでも整形地の間口を広げ、ほんの僅かでも通路提供することで通路側からも出入りを可能にして実質的には角地であるかのように見せかけて高値で売り抜けたかった。穿った見方をすれば整形地側の通行が妨げられぬよう、旗竿地の所有者になる人には隣人の通路を利用させて貰う立場であるかに誤認させるような説明をしておく、又は隣人の協力無くしては新築・増改築できないような立場に貶める必要があった。旗竿地は最低限の面積に縮小して「割安」をセールスポイントにすれば良いと割り切り、将来は再建築不可になる恐れがあることなど煙に巻いて「温厚な人に売りつければ何とでもなる。(紛争には発展しない。)」と高を括ったのではないだろうか。整形地の面積を最大限に拡張して売上を伸ばすこと自体は商売として間違っていないが、わざわざ再建築不可の恐れのある土地を世に産み出して紛争を誘発するのは人の道を外れる。(又は千三つ屋が紛争に関して予見能力が皆無の愚か者だった?)


    残る仮説(仮説3)は「千三つ屋が凡ミスを誤魔化した」と考えるものである。昭和30年代、不動産業界の黎明期に知識不足の千三つ屋が間口を昔ながらの1間(約1.82m)で区画割り(分筆)してしまったとしても驚かない。又は実測してみたら僅かに寸足らずだったのかもしれない。分譲中に建築基準法施行後は間口が2mを欠ければ建物が建たないことに気付いたとしても隣人とは既に売買契約を締結済(商談中?)であり間口を20cm程削ってくれとは言えない。それに再分筆には費用も時間も掛かる。そうかと言って、いくら人の良いKoalaさんの父上でも建築不可の土地では買うはずもない。そこで千三つ屋が考えた言い訳けが与し易いKoalaさんの父上には「お隣さんが通路側に玄関を造りたいと言っている。売却条件は通路を共用することに変更!」と無責任にも平然と言い放ちながら、隣人には「少し建築線をずらして玄関を通路側に造りましょう!通路を共用にすれば実質的には角地になりますよ。」とでも言ったのではないだろうか。資金力のある強面の隣人には美辞麗句を並べ、お人好しのKoalaさんの父上には高圧的な態度で契約を迫った・・・。その他に考えられる凡ミスは、千三つ屋が隣人に「互いに幅員1mづつ提供する通路」との誤った説明をしてしまったケースである。その場合は販売責任者が本当のことを言い出せずに何とか誤魔化そうとしたことが疑われる。もし、未熟な販売員が尺貫法による地積測量図を手元資料にしていたら騙すつもりなど無くとも大いに起こり得る間違いだ。

    いずれの仮説も隣人の我が儘で通路が共用になったのではなく、千三つ屋の無知と浅はかな悪知恵だったとするもの。そして隣人はある時「通路の実態」に気づいて通行料の徴収を終了させたと考えられなくもない。勿論、Koalaさんの父上が遺した「隣人の我儘説」を完全に否定できる程の根拠は無いし、往々にして「事実は小説よりも奇なり」ということもある。残念だが関係者全員が他界した今となっては真相は藪の中である。

    本来は、(せめて)「通路協定書」なる書面を交わして分譲すべきであった。①通路部分は互いに通路としてのみ利用すること、②第三者に譲渡されたとしてもその権利義務が承継されること、の2項目は最低限の骨子とし、③互いに新築・増改築するときには通路提供の義務があること、④埋設管の維持管理に関する掘削は当然に承認・協力し合うこと、を追記してより具体的・恒久的な書面作成をしておくことが望ましかった。そのような紛争の抑止力となる書面が無いからこそKoalaさんのご両親が隣人に対して弱い立場に陥ってしまったのである。対照的に充分な間口が道路に面する隣人は何ら困ることがない。千三つ屋の巧言により通路に関する権利関係を誤認した隣人がKoalaさんのご両親に辛くあったてしまったのはそんな裏事情があったのかもしれない。

    Koalaさんは前述の協定書を今からでも整えておいた方が良いと思うが、相続人同士で売買交渉が可能なら不足している間口分(20cm弱)を隣人から買受けて気兼ねなく再建築できるようにする方法もある。本コラムの挿絵をご覧頂きたい。図解した通り間口を2.5m以上(できれば3m)確保して奥行が10mもあれば駐車場が2区画取れる。「隅切り(スミキリ)」があれば車の出入りもし易い。路地状部分の改良次第で路地状の弱点を補って余りある利点に転換できるのである。前面道路の喧噪を避けたいなら奥まっていた方が良いとする見方も間違ったものではないし、奥行補正で固定資産評価や相続評価も軽減されるはずだ。旗竿地が弱点ばかりと考えるのは早合点である。

    また、望みは薄くとも救済措置が全く無いわけでもない。建築基準法第78条、第79条の定めにより、建築基準法の例外的な取扱いを審議する第三者機関として「建築審査会」がある。これは都道府県と建築主事が置かれる市町村に設置される委員会であり有識者5名以上で構成される。事業目的(営利目的)に相談する我々(不動産会社)に対しては手厳しい判断が下されることが多いが、こと個人の自己居住用の問題であれば心ある判断が下されることもある。

    さて、なぜ妙に間口約1.82mの旗竿地が多いかを考えてみた。昭和25年に建築基準法が施行される前、即ち市街地建築法(大正8年12月1日施行)の時代であれば間口が2m無くとも新築できたからであると思う。車社会が到来する前、尺貫法に馴染みがあった頃までは人が出入りするだけなら間口は1間(=約1.82m)あれば充分とする風潮があったように思う。そう考えると旗竿地に約2.72m(1間半)や約3.63m(2間)の間口が多いのも頷ける。約1.82mの間口が中途半端な数値に思えるのはあくまでも現代人の感覚であって当時の人々にとっては日常的に用いる自然数(正の整数)だったのである。

    余談であるが、コラム№164の末尾に書いた新潟の開発用地の件、遠隔地ゆえに地元の同業者に開発行為の全権を委ねた案件ではあるが、当初の区画割案(当社作成)に地元業者から苦言が呈された。「新潟のこのエリアでは多少間口にゆとりを持たせたとしても旗竿地には買い手が付かない。なぜならば、私有地には除雪車が入ってくれないから、」要するに豪雪地では公道に間口が広く面することが売れる商品企画の大前提になるのだと言う。雪の降らない静岡で生まれ育ち、東京都心部で働く私の盲点だったわけであるが、己の想像力の欠如を恥じると同時に地域密着の大切さを改めて痛感した。

    以上通りKoalaさんから「旗竿地」に対して当方に忌憚のない意見を求めるご要望があった為、申し上げにくいことも含めて遠慮無く「路地状敷地」に関する「思うところ」をつらつらと書いてみた。少しでも参考になれば幸いである。

     


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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