思うところ172.「使わないと傷むもの」 | 東京駅・茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ172.「使わないと傷むもの」




    <2024.6.1記>
    「新築同然!購入後3年間一度も使っていませんから!!」それが恰もセールスポイントであるかのように胸を張る人がいる。(意外にも同業者に多い。)厳密に言えばそれは間違いである。むしろ、「家は(長期間)使わないと傷むもの」と考えるべきであり、ほったらかしにしておいた住戸を売却直前に清掃、見栄えだけを整えて高値で売り抜けようとするテンバイヤー(転売屋)のやり方は邪道に思えてならない。完全未使用状態が5年ともなれば見た目とは裏腹に内部では僅かながらも他住戸より劣化が進んでしまった可能性を疑うべきである。空調設備・電気温水器等の電化製品やガス給湯器といった住宅設備機器内部の精密部品が長期未使用により何らかのダメージを受けた可能性があるということだ。もし、「築後未入居」をセールスポイントにするならば、適切な管理(適度な換気と通水、住宅設備機器は定期的に作動確認)を施してこその謳い文句だろう。そもそも「品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)」と「公正取引規約」で定める「新築」とは「竣工後1年未満、かつ未入居物件であること」である。だから竣工後1年経過したら広告に「新築」の表示は使えないし、仮に竣工後1年未満であっても一度でも居住に供したものであれば「中古」の扱いになる。

    例えば、夏場なら1ヵ月も放置すれば水廻りの排水トラップ(配管の一部に水を溜めて臭気を防ぐ構造)の封水(=ふうすい、栓の役割を果たす水)が蒸発して臭気が上がってくる。「排水口が臭い!」といった苦情の大半の原因がそれである。よって、私はその苦情を受けたら「1ヵ月以上留守にしていませんでしたか?」と尋ねることにしている。臭気そのものは劣化とまでは言わないが更に放置して配管内部の水まで乾いてしまえば鉄部が空気に晒されるから酸化が進んでしまうのは説明するまでもないだろう。また、排水トラップの水が適度に入れ替わらないと蝶蠅(チョウバエ、俗称:便所ハエ)等の小バエが大量発生することも間々あるし、一見綺麗に見えるトイレの便器もまめに掃除をしないとピンクの汚れが発生する。因みに、それをカビだと思って「赤カビ」などと言う人がいるが実はカビではなくバクテリアと酵母菌が繁殖したもの、そのピンクの汚れを餌にして繁殖するのが「黒カビ」である。

    人は天気の良い日には自然と窓開けをしたくなるものだ。また、人が室内を移動しただけでも空気の循環が生まれる。つまり、無意識のうちに換気して自らも空気を攪拌しているわけである。裏返せば窓を閉め切ったままの空家の空気は淀む。淀んで湿気た空気が籠もる部屋にはカビが発生し易い。誰しも独特のカビ臭を嗅いだことは一度ばかりのことではないだろう。カビの生えた部屋は臭いうえに見た目も宜しくない。人によってはアレルギー症状が出たり、呼吸器不全等の深刻な健康被害にあったりもする。

    最近、引越業者から聞いた話では築浅の家でさえも洗濯水栓金具の「固着(こちゃく)」が多いと言う。「固着」とは水栓金具の部品が摩耗、グリス(潤滑油)の減少、パッキンの劣化等が原因で蛇口や止水栓が廻らなくなってしまうこと。たった築2年で固着したのが事実なら摩耗や錆が原因とは考えにくく、水道水に含まれるミネラル分が結晶化して内部に附着したのだと思う。その手のトラブルは特定の製造元の水栓金具で多発していると聞く。だが、営業妨害だと訴えられかねないのでここでは実名公表は控える。その製造元は「洗濯機に接続して2年も止水栓を廻さないことは想定していません!」とでも言い訳するのだと思うが特定の製品だけ短期間で固着するのはおかしい。既に苦情が多数寄せられているはずである。

    寒冷地では給湯器の水抜きをせずに電気の供給を止めると凍結防止装置が作動しないから水道管が凍って破裂する恐れがあることはコラム№44盲点(凍)で述べた。下水道整備が進んだ東京23区では馴染みの無い汚水処理施設となった浄化槽も電気の供給を止めてブロワー(エアーポンプ)まで長期間停止させてしまうと汚れを分解する役割の好気性バクテリア(酸素を必要とする微生物)が死滅するから汚水は腐敗して悪臭を放つようになる。バブル経済崩壊によって長らく放置された沿岸部のリゾートマンションのバルコニーは海鳥の糞害に遭っている。(堆積した糞に木が生えてきた事例さえある。)霧の発生する富士山麓や軽井沢のような別荘地は思いの外湿度が高い。だから普段は使わない別荘であっても定期的な塗装等の適切な管理を施さないと鉄部も木部も腐食が加速する。そして腐食が進んで湿気を含んだ木材はシロアリの好物であり恰好の住処ともなる。また、屋根に積もった枯れ葉は一見風流に見えるかもしれないが微生物繁殖の温床に他ならない。微生物の繁殖が活発化する程に建材を蝕むのである。それも自然界の法則、摂理と言えばそれまでのことだが・・・。

    「建物は使わないと傷むもの」とする確固たる科学的な根拠は枚挙に暇無い。迷信・俗信の類いと軽んじること勿れ、「何故か」までを理解してこそ次世代に受け継がれるべき金言となる。


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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